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CAREER STORIES

つながりたい・認められたい・貢献したいを自分らしく──ユニリーバ島田由香が語る「ハピネス・ドリブン」な働き方

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長・島田由香によると、仕事における人間の根本的なニーズは、タイトルの3つに集約されるという。これから個と組織を動かすキーワードは「ハピネス・ドリブン」だと語る、その思考の背景に迫る。

「今日も2人、1 on 1のアポイントが入っていますよ」

2014年からユニリーバ・ジャパンの取締役人事総務本部長を務める島田由香は、社員一人ひとりとの対話を何よりも大切にしている。

ユニリーバ・ジャパンの従業員数は約500人。ダイバーシティー推進の取り組みには定評があり、特に女性活用にかんしては、女性管理職(課長職相当以上)の割合が34パーセントと、日本企業の平均6.6パーセント(2016年、帝国データバンク調べ)に比べて相当高くなっている。

さらに昨年4月には、新人事制度「WAA」を導入した。「Work from Anywhere and Anytime」の頭文字をとって「WAA」(ワー)。働く場所・時間を社員が自由に選べる制度だ。制度を利用するための条件は2つ。上司に申請すること。平日の6時から21時のあいだであること(休日、夜間は取締役の許可を得ること)。

「全社員のうちの6割がアンケートに答えてくれているのですが、そのうちの92パーセントが、これまでに、WAAを少なくとも1回は使ったと回答しています。そのうち、月に1〜2回使っているという人が4割を占めます。うれしいのは、この制度が始まって『毎日の生活がポジティブになった』と答えている人が、67パーセントいるんです」

「何のためにやるのか?」個人としても、企業としても考えて、深く腹落ちさせるべきだという。

「個の成長」と「組織の活性化」をバランスよく

女性活躍推進や多様な働き方への取り組みで先頭を走る同社だが、島田は、「みんながこうだからこう、という風潮になるのは良くない」と言う。

「たとえば女性活用でも、そう決まったからじゃあ女性活用しなきゃ、というのでは意味がない。(2016年4月に施行された女性活躍推進法では、従業員301人以上の企業では、女性採用比率や女性管理職比率などの数値目標を掲げることが求められているが)数字は目的ではなく手段。なんのためにそれを行うのかということが考えられていないし、話されていないし、決められていない。ここにわたしは、大きな問題を感じます」

自分はなんのためにこれをやるのか。わたしたち一人ひとりが、そのことをきちんと納得して働いているだろうか。そう島田は問いを投げかける。

人や組織への興味は、大学時代にさかのぼる。慶應義塾大学総合政策学部在学中、企業組織・キャリア研究の第一人者である花田光世教授の組織論ゼミに参加した。花田教授は、2003年に発表した論考の中で、「キャリア自律の原点は個人のバリューと仕事のマッチングにある」とした上で、「キャリア自律論の罠」として、「個人」に振れすぎたあまり、「自分探しに走りまわり」、「結果として困難な状況からの逃避に走ってしまう」ことに警鐘を鳴らした。

滅私奉公でもなく、自分探しでもない。「個の成長」と「組織の活性化」をいかにバランスよく連動させていくか。島田が、花田教授から受け継ぎ、自らのキャリアの中で実践してきたのは、そんな新しい人事制度・キャリア支援のあり方だ。逆に言えば、硬直する日本のビジネス環境をイノベーティブなものに変えるためには、一人ひとりの働き方を新たなフェーズに導く必要がある。大きな変化のただ中で、島田は、人事の役割がこれまで以上に大事になっていることを実感している。

ユニリーバの面談では、個人の「パッション」を大切にしている。「人は働くために生きているわけではないからです」。

一人ひとりが持つ種が育って、花が咲くような組織へ

「わたしたちユニリーバで言う『キャリア』にかんして言えば、スタートポイントは『個人』です。『◎◎をしたい』、『◎◎になりたい』という個人のパッションがあることがまずは大事。それだけにとどまらず、さらにそこを押し広げるために、『あなたの人生の目的はなんですか』ということを掘り下げるんです。人生80年90年、あなたは何を成し遂げようとして生きていますか? ちょっと考えてみようよ、と」

そう問われて面食らう社員も少なくないというが、そこから始めるのには理由がある。脳神経言語学(NLP)のコーチングも修めている島田は、「ひとりの人間の脳の回路のパターンは非常に限定されている」と言う。「脳は賢いから、1度回路ができてしまうとそればかり使おうとする。そのほうが楽だし、エネルギーを使わないから。でも、そうするとマインドセットが限定されてくる。それを打ち破ってくれるのは、他者からの質問やリクエストなんですね」

「だからわたしは、アイ・ラブ・クエスチョン、アイ・ラブ・リクエストなんです」と島田は笑うが、ここにこそ「社員一人ひとりの支援者」としての人事の役割があり、島田が1 on 1を重視する大きな理由のひとつがある。

「わたしたち一人ひとりがどれほど素晴らしい存在なのかということを、自分がいちばん忘れてしまっていることがよくあるんです。人と比べてこれが足りない、あれができないと考えるんですが、いやいや、あなたはすでにいろんなものを持っているじゃないですか、と。一人ひとりが持っている種が育って、ちゃんと花が咲くようにすること。わたしはそのことに早くから興味があったから、人事という仕事を選んだのだと思います」

だから、ユニリーバ・ジャパンの「ダイバーシティー」は、単に女性を多く登用することや、外国人や障害のある人などの少数者を雇用することではない。多様な個が存在すること。一人ひとりが「自分の人生のミッションはこれだ」ということを考えることで実現される多様性なのだ。

そして、それがユニリーバという会社の中で実現できるのか、どんなふうに貢献していくのか。その両面からキャリアステップを考える。その結果、「自分の居場所はここじゃない」と気づいて、会社を辞める人が出てくることもある。「それは仕方がない」と島田は言う。

「いちばん大事なのは、本人のハピネスなので。幸せの定義はそれぞれ違いますが、『ああ、ハッピーだな』と思える人が増えることが、とても大事なんです」

では、「ハピネス」をもたらすものは何なのだろうか。

3つの根源的なニーズを自分なりにどう表現していくか。仕事とはそのためにあるという。

つながりたい・認められたい・貢献したい

島田は、「すべての人が持っているニーズには、3つある」と言う。「つながりたい」「認められたい」「貢献したい」。この3つは、誰しもが心の深いところに抱いている根源的な欲求だと、島田は考える。

「この3つのニーズを自分なりにどう表現していくか。仕事はそのためにあるんだと思うんです」

会社という組織の中にあっても「Be myself(自分らしく)」を貫けること。一人ひとりが持っている種がちゃんと花咲くこと。それによって、組織が活気づくこと。島田が考える「人事の要諦」はここにある。

「それは、現場の社員だけでなく、社長も同じです。もしも社長が変わろうとするのであれば、人事はそれをサポートします。社長も花を咲かせなきゃいけないわけです」

島田はいま、マネージャークラスの社員たちの「ハピネス向上」に注力している。彼らがハッピーでなければ、部下がハッピーになれないからだ。

「社員ともかかわるし、マネジャーたちともかかわるし、社長を初め経営陣ともかかわる。そんな仕事は人事のほかにないわけです。だから、社長にものを言えない人事では意味がない。リーダーに対してどう働きかけるのかということが、わたしたちがいちばん力量が発揮できるところだと思います」

島田は、「日本社会は、役割期待が非常に高い社会」だと言う。真面目で向上心が高いからこそ、「自分らしさ」よりも、「組織の中で期待されている役割」を自ら察して、演じてしまうところがある。しかし、それがイノベーティブな環境づくりを阻害しているのだとしたら、その悪循環を変えるのが人事の役割なのではないか。

「組織が変わると社会が変わる。やっぱりわたしは、日本という社会全体を、よりよくしたいと思っているんです」

やりたいと思ったら、すぐ口に出すこと。そうすれば、自分の想像を超えて物事を実現できるようになるという。

目指すかたちは「ハピネス・ドリブン」

島田は、ユニリーバ・ジャパンで実践してきた「ハピネス・ドリブン」の人事制度・環境を、広く社会に広めようとしている。その活動のひとつが「Team WAA!」だ。現在、メンバーは550人ほどに成長している。

「『WAA』のビジョンに共鳴、共感している人たちで作っている『Team WAA!』というコミュニティーには、人事担当者だけでなく、開発職もいれば営業職もいます。若い人からベテランまでさまざまな人たちが集まって、月に一度、議論をしたりワークショップを行ったりして、つながりを深めています。それによって何が起きるかというと、お互いがお互いの『リソース』になるんです。たとえば自分の会社の上司やリーダーが仮にBe myself、Be yourselfを許さない人だったとしても、『ここにリソース、あるじゃん』と。困っているんだったら助けに行くし、変えられないということはないよね、というつながりをつくっているんです」

つながりをどうやってつくろうかと迷ったり、悩んだりすることはありますか?という質問には、島田はきっぱりと「ない」と答えた。

「わたしは常に『何かおもしろいことはできないかな』と、そればかり考えています。わたしがこの人と一緒にやれるとしたら何かなといつも考えているんですね。そして、アイデアが浮かんだらためらわずにすぐに口に出す。基本的に、何かやるときは常に『みんなで』がキーワードです。なぜなら、楽しいし、ひとりでは思いもつかなかったようなアイデアが出てくるし、思っていた以上の結果が出るから。だから、何かやろうと思ったら、まず人を巻き込むことを考えます。それによって翻弄される人多し、ですが(笑)」

つながりは、「わたしはこういうことをやりたい」「社会のために、こういうことをなし遂げたい」と誰かに伝えることから生まれる。新たなつながりから、次のミッションが見つかる。そんな「ハピネス・ドリブン」な好循環は可能なのだ。「規模の大きい企業でも諦めずに、とりあえずやってみようとか、ちょっと考え方を変えてみようという感覚を持つ人が増えていくようなことをしたいと思っています」

いまは人脈を広げようとは露ほども思わないという。「自分のやりたいことをやっていたら勝手につながっていくんです」。