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ビジネスネットワークの思想と哲学

弱いつながりの強さ:早稲田大学ビジネススクール准教授・入山章栄が解説する、世界標準の人脈術

いま世界の経営学ではソーシャルネットワーク研究が盛んに行われている。属人的な人脈術はもう古い。気鋭の経営学者・入山章栄が、最先端の理論をもとに解説する。

誤解を恐れずに言うと、入山章栄は経営の世界における池上彰のような存在になりつつある。

2012年に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』を出版し、経営書としては異例のベストセラーに。15年には『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』を発売し、ハーバード・ビジネス・レビュー(以下、HBR)の読者が選ぶベスト経営書2016の第1位を受賞している。HBRでは毎号、長期連載「世界標準の経営理論」を執筆しているほか、NewspicksやForbes Japan、Bizzineなどでも対談の連載を受け持つ、いま大人気の経営学者だ。

彼の人気の秘密は、「これはもう海外の経営学では常識なんです」という、いわば"入山節"にある。世界の経営学者の間ではすでに常識だが、日本のビジネスパーソンにはあまり知られていない理論を、明快でわかりやすく解説してくれる。

例えば、大企業の若手有志団体のプラットフォーム「One JAPAN」のイベントで登壇した際には、次のように語った。

「いま日本で最も求められているのはイノベーションです。ただ海外も同じ課題を抱えています。世界中の経営学者が、企業のイノベーションについて日々研究していて、毎年新しい成果が生まれています。とはいえ、その根本にある本質はずっと変わりません。イノベーションは、既存の知と既存の知の新しい組み合わせから生まれるというもので、これはもう海外のイノベーション研究では常識なんです」

これは「イノベーションの父」とも呼ばれる経済学者ジョセフ・シュンペーターが「New Combination(新結合)」として80年以上も前に提示した概念で、現在でも多くの経営学の論文で同じような考えが用いられている。今回の取材で注目するソーシャルネットワーク研究も例外ではない。

経営学で、いまソーシャルネットワークはとても大きな研究分野だという。「日本人が知らないだけで海外では数多くの研究が行われていて、『Social Networks』というタイトルの学術誌まで存在するくらいです」

ネットワーク理論の基本は「弱いつながりの強さ」

いま経営学で最も引用されているネットワーク理論は、スタンフォード大学の社会学者でありながら、ノーベル経済学賞受賞の呼び声が高いほど、ビジネス研究の世界に多大な影響を与えている人物、マーク・グラノベッターが1973年に論文で発表した「弱い紐帯の強さ(The strength of weak ties)」である。

入山は、その理論について解説したHBRの連載(第27回)で、「学術的に確立された絶対的な定義・基準があるわけではない」とした上で、一般に「強いつながり」とは、接触回数が多い、一緒にいる時間が長い、情報交換の頻度が多い、心理的に近い、血縁関係にある、といったような関係を指し、その逆が「弱いつながり」にあたると記している。

つながりの強いネットワークでは、いろんな人から同じ情報を得ることになり、情報流通の無駄が多い。逆につながりが弱ければ、多様な情報を効率良く入手できるという。

「弱いつながりをたくさん持っている人は、普通は手に入らない情報をたくさん入手できます。イノベーションは既存知と既存知の組み合わせで起こるため、弱いつながりを多く持っている人の方が基本的にイノベーティブなんです。これも、世界の経営学研究では多くの研究者が同意するところです」

名刺でつながるEightなら、イノベーションのもととなる「弱いつながり」を広げるビジネスネットワークがつくれるという。

人間は似た者同士でつながりやすく、SNSはそれを助長している

「弱いつながりの強さ」の他にもうひとつ、ソーシャルネットワーク研究の中心的な概念に「ホモフィリー」というものがある。端的に言えば、「人間は似た者同士でつながりやすい傾向にある」という考えだ。その歴史は古く、1950年代から社会学の分野で研究されていたのだが、近年、盛んに経営学のネットワーク研究にも応用されている。

「人間には認知のバイアスがあるので、ホモフィリーによって似たような人とつながってしまい、さらにそれを助長するようなアルゴリズムがFacebook等のSNSにあるため、世の中みんな同じような考えを思っているのではないかと勘違いしやすいのです。昨年多くのアメリカ人が『ドナルド・トランプは絶対勝てない』と思い込んでいた要因のひとつもそれかもしれません」

Facebookは友だちの上限が5,000人に設定されていることからもわかるように、そもそもの設計思想が「弱いつながり」を促すものではない。一方、Eightは名刺交換をすればつながるネットワークであり、ホモフィリーの影響を受けにくい特性があると入山は期待を寄せる。

「Eightでは名刺交換をしただけでつながるので、弱いつながりが生まれやすいはずです。もちろんビジネスでは近い領域で取引をする人ですが、その中には思想や価値観が異なる人もいるはずです。そういう意味において、Eightは極めてニュートラルなソーシャルネットワークになる可能性があると思います」

世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)。前職のニューヨーク州立大学に在籍していた2012年に出版。経営学の本としては異例の5万部を突破し、ベストセラーになった。

イノベーションは「知の探索と深化」で決まる

入山はよく「知の探索と深化」の概念を使って日本の企業にイノベーションが足りない要因を解説する。

この概念は、米スタンフォード大学の著名な経営学者ジェームズ・マーチが1991年に発表した論文をもとにしたものだ。「Exploration(知の探索)」と「Exploitation(知の深化)」のバランスがとれた「両利きの経営」を行う重要性について記している。

先ほどのシュンペーターの「新結合」も示唆するように、なるべく人や企業はさまざまな知の組み合わせを「探索」し、試せた方が新しいアイデアは生まれやすい。一方、それを企業の中で「深化」できなければアイデア倒れとなってしまう。入山は、探索と深化はどちらもバランスよく取り組むことが重要なのだが、どうしても組織には「探索を怠ってしまう傾向」が備わっているという。

毎年の予算を立てないといけない企業が目先の収益を高めるには、いま業績のあがっている分野の知を「深化」させることのほうがはるかに効率いいからです。他方で「知の探索」は手間やコストがかかるわりに、収益には結びつくかどうかが不確実で、敬遠されがちになります。この企業の知の深化への傾斜は、短期的な効率性という意味ではいいのですが、結果として知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞するのです。
──『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』より

そこで、これからイノベーションを目指す企業は、「知の深化」は継続しながら、新たに「知の探索」を推し進めるための組織体制の変更や、ルールづくりが求められるという。

「とてもありがたいことに、最近は『あの人に会いたい!』とお願いすると、メディアが対談を実現してくれるんです。この恩恵を活かして、メディアの対談ではなるべく普段会えないような人や接点の少ない分野を選ぶようにしています」

副業もダイバーシティも「人が動いて新しくつながる」施策

2016年の夏以降、政府主導の「働き方改革」の文脈に沿って、組織体制やルールを改める企業が目立つ。

取材した日の夜、入山はLIXILの前副社長・八木洋介氏と食事に行く約束をしていた。八木氏は、社内のダイバーシティを推進した先駆者のひとりとして知られている。ほかに注目している経営者として、副業を解禁したロート製薬のCEO・山田邦雄氏や、週休3日制を打ち出したヤフージャパンのCEO・宮坂学氏などを例に挙げた。

「それぞれ異なる文脈で語られていますが、彼らが行っていることの本質は同じだとぼくは思います。すべてイノベーションのために『人が動いて新しくつながる』施策なんです」

副業や週休3日制は、人を会社から出して「外部の知」に触れてもらう施策。逆に、社内に多様な外部の知を取り込む施策も実施するべきで、それがダイバーシティを大事にした中途採用となる。

入山によると、日本企業にイノベーションが足りない大きな要因のひとつは、新卒一括採用や終身雇用制によって、同じ人がずっと同じところにいる仕組みだという。

「日本式経営では、根本的にイノベーションは起きないんです。もちろん良い面もありますが、いまイノベーションが足りていないのであれば、やるべきは真逆のこと。目の前の知ではなく、遠くの知を見て、それと自分の知を組み合わせることです。知は人間が持っているものです。イノベーションは知と知の組み合わせからしか生まれないことが経営学では証明されているので、結局、人が動いて新しくつながるしかないんですよ」

「ぼくの周りは本当に紹介が多いですね。お互いいつも誰か紹介したい人がいるんです」

人に紹介したくなる人の特徴は「バウンダリー・スパナー」

個人が動いて新しい人とつながる時には、「弱いつながりの強さ」理論にもとづき、なるべく関係性の遠い人に会うと良いのだが、そもそも遠くにはどんな人がいるのかもわからないし、信頼できる人を見極めるのも難しい。そこで効果的なのは、信頼できるつながりの遠い人を「紹介」してもらうことだ。実際、入山の周りではかなり頻繁に行われているという。

ただし、「誰にどういった人を紹介してもらおうか?」と考えるよりも、大事なのは多様な価値観を受け入れる姿勢を持つことだと指摘する。「多くの人は自分のことは考えないで、外の人を探そうとするから駄目なんです。わたしのことを棚に上げて言えば、まずは自分の魅力を高めて、誰もが『紹介したくなる人』になるべきです」。

入山が人に紹介したくなる条件を満たす人とは、「平たく言うと『信頼される力』を持っている人」だという。

「紹介したくなる人の特徴は、その人自身に魅力があり、物事を打算で考えない人。そして、多様な価値観を受け入れられる人です。自分と価値観が違っていてもいいから、『あーそういう価値観持っているのか、面白いね』とか『ぼくとは違うけど、そういう考え方ってあるんですね』というふうに、ちゃんと受け入れることができて、さらにそれを楽しむことができるといいでしょう」

そのようにして、多様な価値観を受け入れながら、組織や部門の「境界を超える人」を経営学では、「バウンダリー・スパナー(Boundary Spanner)」と呼ぶ。ハーバード・ビジネススクールの教授、マイケル・タッシュマンが1977年に発表した論文で広まった概念で、近年も研究は盛んに行われている。例えば、2008年に設立されたアップルの社内研修プログラム「Apple University」で、スティーブ・ジョブズの命を受けて初代学長を務める社会学者ジョエル・ポドルニーは、就任前の06年にバウンダリー・スパナーに関する論文を発表している。

多様な価値観を受け入れることができ、所属する領域に留まらず、外部の世界と「弱いつながり」を広げていける人。今後そのような人が増えれば、日本の企業からもイノベーションが生まれることだろう。そのベースにある経営理論の有効性は、世界の経営学の間ですでにコンセンサスがとれていることなのだから。