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優れたアイデアが生まれる〈出会い〉の論理

フジテレビの低迷からイノベーションについて学べること。2017年上半期 BNL特別総集編

過去の成功体験にとらわれると、どんな企業でも低迷するリスクはある。ではぼくらは何を心がけるべきか? 弊誌編集長が2017年1〜5月の記事の要点をつなぎ考察する。

取材した禅僧からのアドバイスは、「バイアス」を外すこと。妙心寺春光院の庭園にて。撮影:福森クニヒロ

フジテレビの社長と会長退任の報道を受けて、雑誌『経済界』のウェブサイトに「ついに会長職を退任 フジテレビと日枝久の30年」という記事が掲載された。業績低迷の要因について、次のように考察している。

民放三番手だったフジテレビが三冠王の常連となったのは、鹿内春雄氏の号令のもと、俗悪と言われようとも徹底して視聴者受けする番組づくりを貫いたからだ。深夜に実験的な番組づくりをするなど、とにかく挑戦的だった。フジテレビなら面白いことができると、若い放送作家や制作会社が集まり、それがさらなる刺激的な番組につながった。

今はその対極にある。過去の成功体験が大き過ぎるためか、焼き直しのような番組ばかりが並んでいる。「フジテレビに企画を持っていっても採用されない。だから面白い企画であればあるほど、まずは他局にもっていく」という放送作家の言葉が、今のフジテレビの状況を何より雄弁に物語っている。

もちろんフジテレビの低迷には、ほかにもさまざまな要因が重なっているはずだが、ビジネスネットワークの観点から見れば、上記の指摘は問題の核心を突いている。昨年末に公開した2016年BNL特別総集編のメッセージを持ち出せば、「だったらこうしてみたら?」という意見が、フジテレビに集まらなくなったということだろう。

猫も杓子も"イノベーション"と語る昨今だが、この5ヶ月で取材したイノベーター20人の話を聞いた限りでは、シュンペーターの「新結合」の理論を持ち出すまでもなく、イノベーションの本質は知と知の組み合わせであり、アイデアの交換であることは明らかだ。そのほとんどがビジネスの世界では名刺交換から始まり、「だったらこうしてみたら?」といったコミュニケーションから生まれている。

記事:「だったらこうしてみたら?」で面白いビジネスの芽が育つ。2016年BNL特別総集編

企業はどうしても「知の探索」を怠ってしまう

入山章栄(早稲田大学ビジネススクール准教授)は、2012年に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、15年に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP)を出版。経営書としては異例のベストセラーになった。撮影:西田香織

「イノベーションの本質は知と知の組み合わせである」というシュンペーターの理論は、2012年に出版されベストセラーとなった『世界の経営学者はいま何を考えているのか』でも紹介されている。著者の入山章栄によると、組織はどうしても新しいアイデアを探すことよりも、既存のアイデアを深める方に傾倒しがちだという。

なるべく人や企業はさまざまな知の組み合わせを「探索」し、試せた方が新しいアイデアは生まれやすい。一方、それを企業の中で「深化」できなければアイデア倒れとなってしまう。入山は、探索と深化はどちらもバランスよく取り組むことが重要なのだが、どうしても組織には「探索を怠ってしまう傾向」が備わっているという。

(中略)

そこで、これからイノベーションを目指す企業は、「知の深化」は継続しながら、新たに「知の探索」を推し進めるための組織体制の変更や、ルールづくりが求められるという。

記事:弱いつながりの強さ:早稲田大学ビジネススクール准教授・入山章栄が解説する、世界標準の人脈術

しかし、「だったらこうしてみたら?」と社外の人から言われても、それがなかなか実施できないのが会社組織というもの。特に組織の規模が大きくなると、知の探索を積極的に行わない限り、これまでの成功体験が足かせとなり、新しいことに挑戦しづらくなる。外部のアイデアを社内で活用できなければ、そのうち周りも愛想を尽かして、ほかの会社に案を持っていくようになる。まさにフジテレビが辿ってきた道である。

そうした状況を変えるきっかけをつくるために、スタートアップの力を借りてイノベーションの実現を目指す、いわゆる「オープンイノベーション」の推進に取り組む企業が最近増えている。

大企業の新規事業創出には、「出島」作戦が有効

\QUANTUMは5月1日に、初の海外現地法人「QUANTUM\GLOBAL Inc.」を設立。\QUANTUMでStartup Studio事業責任者を務める井上裕太が代表取締役兼CEOに就任している。撮影:小野田陽一

2016年4月に株式会社TBWA\HAKUHODOより分社、独立した\QUANTUMは、「業種・業態が異なる複数の大企業や大企業とスタートアップ企業等、従来は交わることのなかった同志が共創し、新しい製品・サービス・事業・企業体を連続的に生み出す『Startup Studio』」と表明している。同社の井上裕太は、企業の共創を支援する取り組みに大きな可能性を見出しているという。

ぼくは長い間、コンサルタントとして大企業の新規事業開発に携わってきました。その中で、大企業の中にも熱いパッションを持った人がいるのに、それが十分に発揮できずに苦しんでいる様子をたくさん目にしてきました。

実際に調査してユーザーのニーズがあることは分かっている。マーケットの規模的にも十分にインパクトがありそうだ。にもかかわらず、それをやると意思決定するのに何度も経営会議を通さなければならなかったり、PLをもっと精緻にしろだとか、フリーキャッシュフローの見立てが甘いだとか、本質的でないことに阻まれて、なかなか形にできないでいる。そこをうまく突破できさえすれば、日本企業からはもっといろんな事業が出てくるんじゃないか、と思うのです。

一方ではベンチャー企業も、例えばブランドや信頼がないことを理由に苦しんでいます。こちらもまた、リソースさえ揃えばもっと大きなインパクトを出せるはずです。

そう考えたら、両者を結びつけるとか、両者の中にわれわれが入って足りない部分を補えれば、われわれだけでやるよりずっと大きなことができるのではないか、というのが\QUANTUMを立ち上げた発想です。

井上は、この問題を解決するために、企業の中にいわば「出島」のような場所をつくる。そこでは会社の制約を受けずに社員が自由にやりたいことに挑戦できる。

いまの日本企業って、それこそ鎖国時代と同じくらいガチガチに縛られているところがあるので。だから「みんなで出島をつくろう」と言っているんです。さっきのプログラムもそうだし、\QUANTUM自体が出島のようなものでもありますよね。出島をつくると、これまでのルールから解放され、みんな急に動き出すという実感はものすごくあります。

記事:こうすれば大企業の新規事業はうまくいく──\QUANTUM井上裕太が体現する「チェンジ・エージェント」としての生き方

オープンイノベーションについて、もっとオープンになるべき

社内の新規事業起案プログラム「0to1」に採択され、17年2月に正式リリースしたオープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」。その起案者である中村亜由子は、なんと産休・育休中に考案したのだという。撮影:西田香織

インテリジェンスの中村亜由子は、まずは対外的に告知できて、企業同士が双方向にコミュニケーションできる場所が必要だと考え、オープンイノベーションを支援する新規事業「eiicon」を立ち上げた。職業紹介事業者の視点から見れば、いまのオープンイノベーションの状況は、転職が日本で広まり始めたころと、よく似ているという。

問題の2つめは、対外的に発信するスキームを持たないままに始めていることです。経産省が公表しているデータによれば、オープンイノベーションを推進することを意思決定している企業のうち、実に83%がそのことを対外的に告知していないのです。

これは、弊社が長年取り組んできた転職に置き換えて考えれば、ありえない話です。採用ページもなければ、求人広告も出していない。けれども人は欲しいと言っているようなものですから。つまり、出会えないのは、出会いを求めていることを相手が知らないからではないか、ということです。

記事:来週どの企業の人と会うべき? eiiconファウンダー中村亜由子が語る共創につながる出会いの条件

生活者の「本音」から新しいアイデアを探ろう

坂田直樹は、2011年にBlabo!を創業。1万4000人を超える生活者がプランナーとして活躍する日本最大の共創プラットフォームを運営している。撮影:西田香織

企業同士の知と知の交換だけではなく、企業とユーザーを直接つなぐことで、生活者の視点を開発の現場に届けて、新商品の開発に活かそうという取り組みもある。共創プラットフォーム「Blabo!」の坂田直樹は、生活者の本音が引き出せる場所を企業に提供することに、イノベーションの可能性を見出している。

いつも同じメンバーだけで話していると発想は限られてきますし、ユーザーと直接会って話を聞く機会は実は少ないので、どうしてもズレが生じる。こうしたズレがあるまま商品開発を進めた結果、できあがった商品が棚に並んでも全然売れないということが現実に起きていました。

そうした経験を通して、生活者と作り手がいかにズレなく商品を開発できるかという問題意識が芽生えていったのです。

(中略)

オープンイノベーションやコ・クリエーションが一過性のバズワードにならないためには、継続的に活用できる仕組みを構築する必要があります。そう考えて、企業と生活者がフラットに会話し、生活者の「本音」を聞き出し、商品開発に活かすためのプラットフォーム「Blabo!」をつくりました。

記事:顧客の「本音」を引き出し、問題解決につなげる──マーケター坂田直樹がBlabo!で磨きあげた、問いの技法

バイアスを外す心がけから始めよう

川上全龍(妙心寺春光院・副住職)は、世界中から座禅体験に訪れるグローバル企業のエグゼクティブやビジネススクールの学生たちを相手に、バイアスの外して自己認知力を磨く方法を日々指導している。撮影:福森クニヒロ

新規事業の実験ができる「出島」をつくる、\QUANTUM。大企業とスタートアップがオープンに双方向で話せる場所をつくる、eiicon。ユーザーの視点を新商品開発に活かす、Blabo!。

企業がこうした新たな取り組みに参加して成果を生み出すためには、これまでの成功体験にもとづく固定概念をいかに外せるかが大きく問われることになる。そこで、『世界中のトップエリートが集う禅の教室』 (角川書店)の著者で、妙心寺春光院副住職の川上全龍に、「固定概念=バイアス」に縛られないために心がけるべきことを教わった。

最近の企業はいろんな新しい事業をやっていて、「え、この企業がこんなことまでやっているの!?」と思う機会が増えてきました。「何をやってもいい部署」をつくっている企業が増えているからだと思います。予算はないけれど、「これは面白い!」というものがあったらお金を出すから頑張れ、みたいな(笑)。

おそらくそういう部署が多く新設されている理由は、従来の固定概念から脱却する必要性を経営者が感じているからでしょう。例えば、自動車メーカーを例にあげると、「クルマが人に与える影響って何だろう?」と改めて考えてみるのです。A地点からB地点へ移動するだけではなく、車内を快適な空間にして、心を落ち着かせる方法はないか。あるいは逆に、運転する人に興奮を与えるものとして考えてみてもいいでしょう。そういう問いを生み出すには、やはり従来の「クルマ屋」のバイアスに縛られた考え方では無理なのです。

記事:バイアスを外して「自己認知力」を磨こう──妙心寺春光院・川上全龍が説く、禅の哲学

グラフィックレコーディングで議論を整理する方法も

清水淳子(Tokyo Graphic Recorder / Yahoo! JAPAN UXデザイナー)は、会議やイベントのグラフィックレコードをノートに記録して、会社の仲間に共有している。撮影:荻原楽太郎

バイアスを外して多様なアイデアを議論するために、「グラフィックレコーディング」のような新たな伝達手段も開発されている。

グラフィックを表現ではなく、伝達手段のひとつとして扱える人がもっと世の中に増えることで、業界や職種、部署の壁を越えた多様なコミュニケーションが生まれると感じています。また難しい問題に直面した際に、思考停止して、会議の内容を理解できないまま過ごしてしまうようなことも減るのではないでしょうか。多様な価値観や知識の交換を思う存分できる社会になることを願っています。

記事:多様なメンバーの議論を可視化する「グラフィックレコーディング」のすすめ

組織を変えるには、まず一人ひとりが変わるべき

名刺交換をしてビジネスネットワークを広げることに何の意味があるのか? なぜ人間は貴重な時間を割いて、事業の目的も内容も異なる企業で働いている人と意見交換をするのだろうか?

これらの問いをBNLの取材を通して探っていくと、異なる知と知の交換をするためであり、企業に新しい知を取り込んでイノベーションを起こすため、というのが大方の見解がであることがわかった。つまり、入山章栄の言葉を借りれば「知の探索」を推進するためである。

いきなり組織の体制やルールを変えるのは難しいが、組織とは一人ひとりの人間がつくるものでもある。まずは各個人が「自己認知力」を磨き、バイアスを外して物ごとを捉えられるようになり、個人レベルで「知の探索」を進めることから取り組むべきではないだろうか。Eightがビジネスネットワークとしてユーザーに提供できる価値も、きっとその延長線上にあるはずだ。