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新規事業を加速させる戦術

顧客の「本音」を引き出し、問題解決につなげる──マーケター坂田直樹がBlabo!で磨きあげた、問いの技法

共創プラットフォーム「Blabo!」は、多くの企業や地方自治体をクライアントにかかえ、ユーザーから優れたアイデアを集めて新商品開発の提案を行う。彼らはいかにして生活者の「本音」を引き出すことに成功しているのか。創業から6年かけて磨き上げた「問いのデザイン」の秘密に迫る。

人と人が出会い、知の交換が行われ、面白いアイデアが湧き、新しいビジネスが生まれる。

言葉にすると簡単だが、実際にやろうとすると多くの困難がある。例えば、相性の良い組み合わせの人たちが奇跡的に出会えたとしても、そこに適切な問いがなければ面白いアイデアは生まれにくい。また、出てきたアイデアが面白いかどうかを判断するのも難しい。そのアイデアに多くのリソースを使う経営判断を伴う場合はなおさらだ。

特にメーカーの製品開発の現場では、一度製品をつくって発売してみないとユーザーのニーズがあるか判断できないところがあった。作り手である企業がどんなにいいモノをつくったと思っていても、使い手である生活者が欲しいモノとの間にズレがあれば、その商品が成功を収めることは難しい。このズレを解消するのに、いっそ生活者に何が欲しいかを発売前に直接聞いてしまうのは、有効な手段かもしれない。

しかし、ここにひとつの問題が生じる。せっかく直接つながった生活者は、はたして企業に対して「本音」で話してくれているのだろうか、というものだ。

共創プラットフォーム「Blabo!」で、坂田直樹はこの問題と正面から向き合ってきた。彼らが目指しているのは、もっと生活者の「本音」を流通させて、それによって企業と生活者の溝を埋め、「ズレのない商品」で世の中をあふれさせることだという。

社内だけでは視野が狭くなる。消費財メーカーのマーケティング部署での自身の経験が直接起業のきっかけになったという。

──Blaboが創業した2011年時点の日本では、いまほど共創の必要性は注目されていなかったように思います。なぜ事業を立ち上げたのでしょうか?

自分は新卒で外資系の消費財メーカーに入り、マーケティングという立場から商品開発に携わっていました。そこで感じていたのは、社内でミーティングばかりしていると、どうしても視野が狭くなってしまうということです。

いつも同じメンバーだけで話していると発想は限られてきますし、ユーザーと直接会って話を聞く機会は実は少ないので、どうしてもズレが生じる。こうしたズレがあるまま商品開発を進めた結果、できあがった商品が棚に並んでも全然売れないということが現実に起きていました。

そうした経験を通して、生活者と作り手がいかにズレなく商品を開発できるかという問題意識が芽生えていったのです。

リサーチの手法としても、当時の日本ではアンケート調査やマジックミラー越しのグループインタビュー程度しか行われていませんでした。わたし自身は、そもそもそうした調査を調査会社を挟んでしか行えないことにも疑問を感じていました。自社の商品を使ってくれているユーザーと、調査会社経由で、たまにしか会えないこと自体、おかしいのではと感じていました。本来であれば、社内のメンバーだけでユーザーの気持ちを想像しながら商品開発を行うより、いつでも気軽にユーザーに聞けたらいいはずです。

アメリカではP&Gが、2000年代に「Connect + Develop」と掲げて、ユーザーと直接つながる試みを実践していました。こうした考えを早く日本にも広めなくては、という危機感が募っていったのです。

──マーケティングの手法や考え方で日本は遅れていたんですね。

とはいえ、生活者と直接つながることでズレのない商品をつくるというのは、もともとマーケティングの王道であって、特別なことではありません。

日本でも、八百屋さんが直接主婦とやりとりし、そこで得られたフィードバックを仕入れに活かす、ということを普通に行っていたわけです。それがマス・マーケティングの時代になって、CMを使ったり調査会社経由でリサーチするのが当たり前になったことで、両者の間に溝ができてしまいました。

だけど、いまはソーシャルメディアの時代になり、誰もがフラットに自分の意見を言えるようになって、現実に作り手と使い手の境界線はなくなってきていますよね。かつて八百屋さんが当たり前のやっていたように、作り手と使い手が再び直接つながるという、当然の流れがあると思っています。

コ・クリエーションが一過性のバズワードにならないためには、仕組みをつくる必要がある

ただ、オープンイノベーションやコ・クリエーションが一過性のバズワードにならないためには、継続的に活用できる仕組みを構築する必要があります。そう考えて、企業と生活者がフラットに会話し、生活者の「本音」を聞き出し、商品開発に活かすためのプラットフォーム「Blabo!」をつくりました。

バイアスを外して、企業の強みとユーザー(消費者)の本音に共通する部分を探ることが大切だという。

──従来のリサーチ手法はどこに問題があったのでしょうか?

1つは、バイアスの問題です。従来のアンケート調査では、企業はあらかじめ自分たちが持っている仮説を裏付けるような声しか集めることができませんでした。いまでもユーザーの本音を発見するためにではなく、社内を説得するための材料を揃えるためだけのために利用している企業もあります。

それでは答えが予定調和に収まってしまって、想定外の視点やインスピレーションは得られない。商品開発を行う際に、本来必要なのは、社内では生まれなかった予定不調和な発見のはずです。

フラットに本音を引き出すためには、質問の立て方が大事になる。われわれはそれを「問いのデザイン」と呼んでいます。

まず、あまりに具体的すぎる問いは一部の人しか答えられませんから、多くの人にフラットに考えてもらうには、余白のある問いである必要があります。一方で、広がりがありすぎて漠然とした問いでは、答えづらい。また企業側も、集まった回答から具体的な商品に結びつけることが難しくなってしまいます。

つまり、生活者が自由に発想でき、それが企業に新しい視点をもたらし、さらに実際に商品化につながる具体性も持つような、絶妙な粒度を持った問いをデザインすることが、重要になります。

生活者が自由に発想でき、企業に新しい視点をもたらし、さらに商品化につながる具体性も必要

──非常に難しいことのように思うのですが、ポイントはどこにありますか?

Blabo!ではこれまでに、編集者とエンジニアが連携しながら1000個以上の問いをつくることを通じて、技法を磨き続けてきました。この質問の精度は、システムを導入した企業が使ってくれればくれるほど高まっていくようになっています。どのような問いだったら、思わず本音をぽろりと言ってくれるのかをデータを分析しています。

また、アプリのユーザーインターフェイスも工夫しています。例えば生活者の不満とそれに対する解決策をセットで集めています。

具体的に説明すると、ハウス食品さんがBlabo!で集めた消費者の声を元に商品化したシチューがあります。メーカーの課題は「カレーや鍋は人気なのに、どうしてクリームシチューを食べる人が減っているのだろうか」という少しぼんやりしたものでした。もちろんいろんな調査はしてきていましたが、核心を突く原因がわかっていない状態でした。

そんな中で「シチューに対する不満を教えて」と聞くと、たしかにさまざまな声が集まるのですが、具体的にどのような商品を作ればその不満を解消できるのかまでは分かりません。逆に「どういう商品だったら欲しい?」という質問に対しても回答は集まるものの、解決すべきポイントがどこにあるのかまでは判然としません。

ところがそれをセットで質問すると、途端に回答のクオリティが上がるのです。「シチューにまつわるモヤモヤを大募集! いったいどんなモヤモヤで、どうすれば解決できる?」といった具合に質問すると、質の高い回答が返ってきました。

企業側が聞きたいことと、生活者が抱えているモヤモヤが重なったところに、新しくて、それでいてちゃんと形になるようなアイデアがあります。問いをつくる上では、その「重なり」が重要であると考えています。

ハウス食品とBlabo!のコラボレーションにより、ご飯に合うレシピが付いた、Blabo!印のシチューが誕生。2016年9月から全国のスーパーで販売されている。

──いま挙げていただいた例は、思っていたよりも粒度の荒い質問でした。

それは最初の問いの目的が、シチューが食べられていない要因を広く集めることにあるからです。

そこから少しずつ具体性のある質問を重ねていき、解決策につながりそうなポイントがどこにあるか見当がついたところで仮説を立て、さらに別の問いを投げかけて、核心へと迫っていきます。つまり、問いが一種のファシリテーションになっているのです。

──となると、質問者にはどこに深掘りすべきポイントがあるのかを見極める能力が求められることになりますね。

たしかに、可能性のあるものをちゃんと選んで実現していくのが、これからのマーケターの役割です。その意味では、目利きができなくては今後、作り手としては厳しくなっていくだろうと思います。

ただ、その点においてBlabo!に価値があるのは、質問に対していち生活者が回答して終わりではなく、チャットのようなインターフェースの中で、企業の担当者や他の生活者も交えてリアルタイムでディスカッションができることです。いわば、オンラインで企画会議をすることができます。

オフラインの会議においてもそうですが、いい質問に対しては必ず議論が巻き起こるものです。ということは、多くの人が参加して議論が盛り上がっているところにこそ、深掘りすべき鉱脈があると考えることができます。

誰かひとりの天才から凄いアイデアを得ることを目指しているわけではない

ここで重要なのは、誰かひとりの天才から凄いアイデアを得ることを目指しているわけではないということです。「何かこの辺にチャンスがありそうだ」「問題はこの辺りにあるのかもしれない」というのが分かることにこそ、こうした集合知の価値があるのです。

これまでに実現した他の人気のアイデアには、神奈川県が商品化した「赤ちゃん用の防災用品」や、Oisixが商品化した「共働き夫婦のための料理キット」などがある。

──ところで、Blabo!に参加する生活者はなぜ回答してくれているのでしょうか。金銭やポイントといったインセンティブを設定していないようですが。

それこそが、従来のリサーチ手法が抱えていた問題の2つめです。質問に回答してもらうのに、金銭的なインセンティブは逆効果だと考えています。

というのも、アンケート調査で1問回答するごとに1円もらえるというふうに設定してしまうと、生活者からすれば、内容が適当でも大量に回答した方が得ということになりますよね? それでは、本音を引き出してズレのない商品をつくるという、本来の目的を達成することはできません。

これは「働く」という行為についてよく言われることと同じではないでしょうか。金銭を目的に働いていると、働くモチベーションには早晩、限界がくると言われています。そうではなく、自己実現や世の中に対して価値を提供することに一生懸命になっていたら、給料はそのような行為に対して結果的に支払われるというのが、本来の「働く」ということであるはずです。

もちろん、Blabo!にまったくインセンティブがないということではないですよ。商品が実現したり、いいアイデアと認められたりしたら、その商品が送られてくるようになっています。

本当にその商品なりサービスなりのファンであれば、「もっとこうなったら便利なのに」「ここが変わればもっと友達に広めるのに」という思いが自然と湧き起きるはずです。そうした声に企業の担当者がちゃんと耳を傾けてくれて、場合によってはそれが本当に実現するとなったら、そのこと自体が回答する十分な動機になるのではないかと思っています。

『問題解決ドリル──世界一シンプルな思考トレーニング』坂田直樹著。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンはどのようにしてV字回復させたのか? 「JR東日本」が発見した鉄道事業以外の自社の大きな可能性とは? など、具体的な事例をもとに問題解決力を身につけられる。

──Blabo!を続けてきた6年間で、企業や生活者の意識に変化を感じていますか?

そうですね。わたし自身、昨年『問題解決ドリル』というユーザーインサイトをどう発見するかをテーマとした書籍を書きましたが、10年前であれば、CMの作り方についての本を書いていたかもしれません。

こうした事実ひとつとっても、世の中の需要が変化してきていると感じます。企業にいるマーケターの興味関心が、いかに本音を発見できるのかというところに向いてきているということです。メーカーは、メーカーですからモノは作れるんです。だけど、最大の課題は、「顧客が本当に何を求めているか」がわかりづらくなったことなんです。ただ新商品を作ればいい時代ではなくなったというマーケターの危機意識が、そうした変化を促しているのでしょう。

最大の課題は、「顧客が本当に何を求めているか」がわかりづらくなったこと

一方のユーザー側にとっても、好きなブランドの企業担当者と直接話しながら商品開発に関わっていくというのは、すでに普通のことになっていますよね。Blabo!でも大企業の商品から地域の特産品まで50個以上の商品がユーザーイノベーションで生まれています。

アルビン・トフラーはかつて「プロシューマーの時代」という言葉を使って、作り手と使い手の一体化を予言しましたが、もはやそんな特別な言葉は必要ないくらいに当たり前のことになっています。最近では、「NHKスペシャル」が番組の企画会議をBlabo!と共同で開始しました。商品開発だけではなく、テレビ番組をはじめとしたメディアのコンテンツ作りにも、視聴者や読者が参加する時代になりつつあります。

その背景にはもちろん、ソーシャルメディアの普及やデバイスの進化があります。企業のマーケターが質問を投げたら、すぐに生活者のスマートフォンにプッシュ通知がきて、即座にそれに回答する。すでにそういう感覚になってきているということです。

生活者の本音を流通させる最適なかたちを求めて。坂田の挑戦は続く。

──これからも、Blabo!もいまある形とは変わってきますね。

Blabo!でやっているのは、これまで流通していなかった生活者の本音というものを流通させることであって、その点においては今後も変わりません。

現状では、メーカーのお客様相談センターにわざわざ連絡しているような人は一部です。普通に生活している99%の人は、普通に満足していたら、わざわざ電話なんてしないので、普通の人の本音はわかりませんでした。

本音が流通してこなかったのにはいくつかの要因がありますが、パッケージ化されていなかったことも要因のひとつと考えています。

本音が流通してこなかった要因のひとつは、パッケージ化されていなかったこと

スーパーマーケットの価値がどこにあるのか考えてみると、理解しやすいかしれません。スーパーではさまざまな生産者が納品する商品を統一した規格、統一した価格でパッケージ化しているからこそ、消費者が買いやすいのです。つぶやきもかつては流通しないものでしたが、ツイッターが140文字のパッケージにしたことで、流通するようになりました。Blabo!がやっているのも同様のこと。本音というものをちょうどいい形にフォーマット化することで、流通させる試みなのです。

ただ、流通させるためのちょうどいい形というのは、時代とともに変わっていくものだと思っています。だから今後も、われわれの挑戦は終わりません。その時々のテクノロジーを使って、ひたすら時代とズレない形を追求していくつもりでいます。