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BUSINESS INSIGHTS

「界隈性」が新ビジネスを育てる──コワーキングスペースFINOLAB・蓮村俊彰の共同プロジェクト成功論

2017年2月にリニューアルオープンした「FINOLAB」は、金融(ファイナンス)とテクノロジーを組み合わせた「FinTech」に取り組む企業のための注目のコワーキングスペースだ。電通・蓮村俊彰が語る設立ストーリーから、ビジネスにおける「界隈性」の可能性を探る。

2017年1月、電通報に21世紀のイノベーションに必要な「界隈性」、という記事が掲載された。

執筆者は電通ビジネス・クリエーション・センターの蓮村俊彰だ。彼は、2016年に金融とデジタルテクノロジーをかけ合わせた「FinTech」という世界的なスタートアップの潮流を日本でも広めたいと考え、大手町にシェアオフィス「FINOLAB(フィノラボ)」を設立する構想を立てた人物のひとりだ。

「界隈性」のシンプルな例は学生にとっての学生街だ、と彼は記している。

「今どこそこで飲んでいるから、おまえも来いよ」と友人に呼ばれて向かうと、呼び出してきた親しい友人もいれば、それほど親しくない顔見知りもいて、中には知らない学生もいる。たまたまその場に居合わせただけの人も一緒に騒いでいる。

しかし、そんな知らない人も、その日から友達になり、今度みんなで遊びに行く約束をする。こうしてコミュニティーやネットワークが広がってゆく。そんなコミュニティーのより所としての「たまり場」が、点ではなく面として街に散在し、機能している状態が「界隈性(かいわいせい)がある」状態なのだと思います。

21世紀のイノベーションに必要な「界隈性」より抜粋)

日本でFinTechを盛り上げていくためには、イベントでたまに顔を合わせるだけでは足りず、界隈性のある「たまり場」をつくり、もっと日常的に交わる機会から生まれる「有機的な交流」を促す必要があると彼は考えた。

決して真新しい概念ではないが、その言葉には説得力がある。なぜならFINOLAB設立の経緯自体も有機的な交流から生まれたものだからだ。

周りに聞かれたくない電話をする時に入る場所として、電話ボックスが設置されている。

──年初の電通報の記事が出てから、わたしの周りの編集・広告・マーケティングの人たちと話していると、「界隈性」がたまに話題にのぼるようになりました。

そうなんですね。界隈性という言葉自体はすごく昔からあるもので、電通報で書かせていただいたことで、いままでご存知でなかった方にも知っていただく機会が広がったのかもしれません。

──もともと建築業界でよく使われる言葉なんですよね?

そうですね。建築家の方が不動産会社にプロポーザルを出す時に、「界隈性を重視する」という言葉が書かれていないことの方が珍しいくらいです(笑)。

──蓮村さんの記事をきっかけに、もう少し広いビジネスの領域でも扱われる言葉になりつつあるのではないかと思います。

そう仰っていただけると嬉しいです。概念として、いま「界隈性」という言葉が面白いと仰っていただいていますけれども、名前がちょっと変わっただけで、その重要性は、例えば渋谷に「ビットバレー」をつくろうとされた先輩諸兄の頃から共有されています。それをFINOLABは金融街でやろうとしているという話で、アナロジーとしてはそんなに新しいものではないと思っています。

2017年2月にリニューアルオープンしたばかりだが、オフィスの個室はすでに満室になりかけていて、早くも増築する計画が立っているという。

──「FINOLAB」は、最近リニューアルオープンしたそうですね。

はい。最初は1年後に取り壊す予定だったビルに、仮の場所としてつくったのですが、その正式オープンが2016年の2月1日でした。その1年後に現在のこちらのビルに移りまして、今年の2月1日に正式リニューアルオープンしたばかりです。

──当初はどういうかたちで始まったのですか?

三菱地所、電通国際情報サービス、電通の3社で運営しているのですが、電通に所属するわたしの視点から立ち上げの経緯を説明しますね。

──はい、お願いします。

まずは電通国際情報サービス(以下、ISID)のメンバーとわたしの出会いから始まります。

ISIDは電通のグループ企業ではありますが、単独で東証一部に上場していまして、電通とは異なる事業基盤をもつ会社です。特にFINOLABを一緒にやっているISIDの金融ソリューション事業部と電通の間に人的交流はほとんどなく、もともとわたしも知り合いはひとりもいませんでした。

当時わたしは電通でクラウドファンディングの新規事業立ち上げに関わっていました。そのころ電通報WEB刊にISID金融ソリューション事業部の方がクラウドファンディングやFinTechの特集記事を寄稿していたので、著者の連絡先を調べて「あなたに会いたい!」と“ナンパ”したところ、会ってくれたのです。

蓮村は、電通の社内で新規事業のアイデアを募集するコンテストに、クラウドファンディングの企画を応募した。

──蓮村さんの“ナンパ”から始まったんですね!

そのころすでにISIDは「FIBC」というFinTechのビジネスコンテストを運営していたので、国内のFinTechのネットワークは築けていました。しかし、如何せん年に1回のイベントでは、次の年まで再び会うことはほとんどありません。仮に会いたくなったとしても、わざわざアポをとる必要があるからです。

ある日飲みの席でISIDの方々とお話していると、「毎日一緒にいられるような部室のような場所が欲しいんだけど、電通さんどこかいい場所ないかな?」という相談をいただいたのです。「ただ電通本社のある汐留というよりは、やはり丸の内の金融街がいいですよね」なんていう話をしていました。そうすると、非常に幸運なことにわたしの隣の席に座っていた部長が三菱地所さんのお仕事をさせていただいていたのです。

──なるほど、そうやって3社がつながるわけですか。

しかも部長からタイミングの良いことに「お前、SFC(慶應大学湘南藤沢キャンパス)出てるんならベンチャーとか、そういうの詳しいんだろう? 丸の内・大手町エリアに、活きのいい若者を集める良い方法なんかないかな?」と相談を受けたのです。そこで、数日前にISIDの人たちと飲み会の席で交わした話を思い出しまして、企画をつくってみることになりました。

──それはタイミング良かったですね。

ISIDと電通とで、三菱地所さんに「こういうことやってみませんか?」と提案しに行ったところ、「やりましょう!」ということになりました。3社の合意が取れてからの進展は早かったです。2015年の夏ごろ提案しに行って、年末にはもうFINOLABの施設ができました。

──早いですね! 参加企業も多く集まったのでしょうか?

当初、参加企業数は1年で10社くらい集まることを目標にしていたのですが、蓋を開けてみれば1年で40社も興味を持って来てくださいました。

入り口には、会員の企業ロゴが一覧で掲示されている。

──こうしてお話を伺っていると、まさに「界隈性」からFINOLABは生まれたんですね。

改めて振り返るとそうですね。同じ電通グループなのに、コミュニケーションがほとんど存在しなかったISIDをわたしがナンパしたところから始まりました。電通は汐留で、ISIDは品川にオフィスがあって、両社の間には少し距離があるのですが、品川で打ち合わせをしたり、新橋で飲んだりして、密にコミュニケーションをとるように心がけていました。

隣に座っていた部長も、すごく自分に目をかけてくれていてコミュニケーションがとれていたのです。そうでなければ、三菱地所の相談はされなかったことでしょう。

これは大企業でよく起きていることでしょうけれど、社内の断絶、縦割り、部内コミュニケーション不足といったものが、まさに界隈性が欠落して新しいイノベーションが起きない原因のひとつになっているのではないか、という気はします。

──電通報の記事では、「有機的な交流」という言葉も使われていますね。

記事の中で、有機的な人間関係を築くためには、個人の顔で、ほぼ毎日会っているような関係じゃないと築けない、といったようなことを書いたと思います。それって実は職場の人間関係と近い話なのです。FINOLABの会員の方々には、職場の同僚、先輩、後輩の人間関係と同じようなものを、違う会社の人とこの場所を使って築いて欲しいと願っています。

電通報の記事「界隈性は、イノベーションのゆりかご」より。(図作成:電通報)

──電通報の記事で掲載された図解では、毎月と毎日の間にFINOLABとして「目指すべき領域」があるようですね?

職場や学校だと、毎日絶対会わなければいけないという義務が発生して、有機的な交流の悪い側面が出てくることもあります。でもFINOLABは別に毎日来なくてもいいんです。週に1回だけ来るのでもいいんです。そうやって会員の皆さんが自発的に自由に集まれる場というのが、いまわたしの中ではひとつの理想としてあります。

──毎日会うのと、年1回程度会う。その中間にあるような機会はこれまでなかったのでしょうか?

イベントとしてはありますよ。例えば、一般社団法人FinTech協会の前身となった「FinTech Meetup」は毎月開催され、コミュニティとしては大きな規模に広がっています。自分もFinTech協会の会員なので、よく参加していました。でもやっぱり固定の場所がないと、Meetupでお会いした方にわざわざ会う時間をつくっていただく必要がありました。

──「界隈性」を生み出していくために、何か個人レベルで意識してできることはありますか?

まず自分で動かないとダメでしょうね。FINOLABはFinTechスタートアップ会員を公募していません。紹介ベースが原則です。日本のFinTechコミュニティで積極的に活動していれば、FINOLABを紹介して下さる業界の有識者の方々の誰かに必ず巡り合うはずなので、そのような方法にしています。

どうしても組織は大きくなるとガバナンスをとらなければいけないので、官僚機構が生まれざるを得ないとは思うのですが、官僚的になっていく組織に所属する個人は、意識的に違う部署やグループ会社の知らない人に突然ナンパして「飲みに行こうよ!」と誘ってみたりされてもいいですし、その方が面白いことができると思います。

FINOLABのメンターを担ってくださっているFinTech業界の有識者団体「FINOVATORS」の代表理事、増島雅和弁護士との出会いも、クラウドファンディングのセミナーで登壇されていた増島先生に、わたしが飛び込んでいき、ご挨拶させていただいたのがきっかけです。

大手町という場所柄、多くのメンターがすぐ近くで働いていることもFINOLABの大きな強みになっているという。

──これからのFinTechの展望は?

FinTechはいろんな領域があるので、一括りでは語れないですけれど、自分がやってきたクラウドファンディングの話で言うと、資本主義の仕組みみたいなものが変わるのではないかと思っています。

ソーシャルメディアが流行り始めた頃から言われている話ですけれども、もう新しく事業を立ち上げたい人が、いわゆる投資家に、別に頭を下げて出資してもらわなくても、その人がやりたいことが社会から共感を集める価値のあることだったら、一般の人から必要なリソースは集まってくるような時代になりつつあります。

そうすると、資本と呼ばれているものの性格や相対的な価値はおそらく下がっていき、資本家の利殖の手段という側面がなくても、新たな事業を立ち上げられるようになっていくと思うのです。生活共同組合みたいな仕組みがワールドワイドでICTの力で回るような、そういう世界が、すべての産業では起きないかもしれないですけれど、結構たくさんの産業で起きていくのではないかと思っています。FinTechの中でも特に話題のブロックチェーン技術も、そんな新しい社会経済を支える技術的裏付けになりそうな期待があります。

基本的に企業は上場すると、株主の利益を最大化するためにどれだけROIを上げるかという話になってくるのですけれども、生活共同組合みたいな団体は、「出資者=顧客=一般生活者」であり、その人たちが共生する社会の利益を最大限に考えるインセンティブ構造になるので、基本的にはソーシャルグッドを追求します。そのためグローバルでクラウドファンディングなどの仕組みを通して資金や経営資源を調達したら、グローバルに社会貢献し続けないと怒られてしまうので、従来のように場合によって社会利益と相反することもある株主利益を追求するあまり、世の中にソーシャルバッドなことを行うインセンティブはより少なくなっていくと思います。

近年「資本主義はもう限界だ」なんていう言説も多いですが、それに対してFinTechが何か具体的な方法論を提示できるような日がひょっとしたらやってくるのかなと、個人的には期待しています。