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新規事業を加速させる戦術

来週どの企業の人と会うべき? eiiconファウンダー中村亜由子が語る共創につながる出会いの条件

オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」は、総合人材サービス、パーソルグループのインテリジェンスの新規事業としてこの2月にリリースされた。ファウンダーの中村亜由子は、日本のビジネスマッチングの現況について改善の余地は多分にあると主張する。

来週どの企業の人と会うべき? まず名刺交換すべき担当者は誰? その出会いを阻む壁は何? どうすればその壁を越えていける?

それらの問いの解を求めて、この2月に企業と企業のビジネスマッチングを支援するサービス「eiicon」を立ち上げた、インテリジェンスの中村亜由子を取材した。

“オープンイノベーション”の必要性が叫ばれるようになって久しいが、どんな共創関係もまず出会わないことには始まらない。例えば、大企業が自社で新たな事業を立ち上げるのに、ある技術さえあればコストを大幅に削減できることが分かっているとする。そうした技術を持った外部のスタートアップがいるのなら、ぜひ提携したいと考えるだろう。だが、肝心のパートナー企業はどうやって見つければいいのか。

インターネットで検索したところで、最先端の技術を持った企業がピンポイントで見つかることなど稀だ。だから企業の担当者は、イベントを行脚して名刺交換を繰り返すことになる。しかし、それではあまりに非効率だし、足で稼ぐのにも限界がある。

この問題を解こうというのがeiiconだ。中村によれば、Eightが働く個人をつないで新たなビジネスチャンスを生み出そうとするのと同様に、eiiconは企業と企業の出会いを支援することが目的だという。中村がeiiconに込めた思いを通して、共創につながる質のいい出会いの条件とは何かを探る。

「eiicon」は、Ecosystem Innovation Inspire CONtact(エコシステム・イノベーション・インスパイア・コンタクト)の頭文字を取っている。ファウンダーの中村亜由子は、産休・育休中に事業案を練り上げたという。

──日本企業のオープンイノベーションに関する現状をどう見ていますか?

CCCさんや東急電鉄さんなど、先見の明がある企業はもう3、4年も前から、強烈な危機意識を持ってオープンイノベーションに取り組んでいますが、一般的にはまだこれからという企業がほとんどです。大企業が社内にオープンイノベーション戦略室をつくったとか、社長直轄の特命を受けて担当課長になったというような話はよく聞くものの、実際にはまだ何もやっていないというのが現状ではないでしょうか。

できていない、やっていない理由としてここ数年よく耳にするのが、そもそも最適なパートナー企業と出会えない、探せないという声です。そしてわたしが考えるに、出会えないというのには、こうした企業自身がいくつかの問題を抱えていることがあると思います。

──その問題とは?

1つは、オープンイノベーションに取り組む目的が明確になっていないことです。非常に「らしい」話なのですが、日本企業には周りがやりだすと、つられてやり始める傾向があります。こうした企業はブームに乗ってとりあえずやってみているだけだから、ふわっとした見切り発車になっている。それでは何も始まらないというのは当然です。

問題の2つめは、対外的に発信するスキームを持たないままに始めていることです。経産省が公表しているデータによれば、オープンイノベーションを推進することを意思決定している企業のうち、実に83%(「オープン・イノベーション等に係る企業の意思決定プロセスと意識に関するアンケート調査結果」※対象:日本国内の上場企業、時価総額 50億円以上の2,883社〈2015年現在〉〈経済産業省調べ〉)がそのことを対外的に告知していないのです。

これは、弊社が長年取り組んできた転職に置き換えて考えれば、ありえない話です。採用ページもなければ、求人広告も出していない。けれども人は欲しいと言っているようなものですから。つまり、出会えないのは、出会いを求めていることを相手が知らないからではないか、ということです。

さらに、こうした企業自身の問題に加えて、オープンイノベーション市場にはこれまで、企業同士が双方向にコミュニケーションできる場がなかったという問題があります。

──というと?

企業同士の出会いを後押ししようというプレイヤー自体はこれまでもいたのですが、基本的にはどれも、エージェント型のビジネスモデルでした。こうしたプレイヤーは大企業やスタートアップのデータベースを持っていますが、それを非公開にしています。クライアント企業からパートナー探しのオーダーをもらったら、エージェントが自社のデータベースを参照してピックアップするのです。

紹介してもらうのには当然、お金がかかります。そしてお金を払ったとしても、必ずしも満足いく相手と出会えるとは限らない。徹底して満足する相手と出会いたいと思ったら、別の相手を紹介してもらうのにさらにお金を払うことになります。

それが嫌なら、企業は自分で提携相手を探さなければならなくなりますが、当然それは困難を極めます。スタートアップからすれば、仮に提携したい大企業があったとしても、その中の誰が担当者なのかが分からずにたらい回しにされるストレスがありました。逆に大企業側からすれば、必要な最新技術というのはWebで検索するくらいですんなり出てくるものではありませんから、イベントを行脚して、ひたすら名刺交換することを強いられていたのです。

わたしたちeiiconがやろうとしているのは、まさにこうしたイベントで行われていたような双方向のコミュニケーションの場をWeb上につくることです。

ネイルの文字に注目!

──具体的にはどんな仕組みで?

登録企業はマイページでやりたい事業内容や保有するリソースを明記します。eiiconは完全にオープンなプラットフォームなので、それを誰でも閲覧でき、気になったら直接メッセージを送れます。閲覧する側もマイページを持っているので、どんな企業が自社に興味を持ってアクセスしてきたのかも分かるというわけです。そうやってコンタクトを取り、実際に会い、お互いのやりたいことが一致して首尾よく提携に至ったとしても、一切利用料は発生しません。

──なぜ無料であることにこだわるのでしょうか?

それには、わたしがこのサービスを考案した動機が関係しています。わたしの親戚は地方で鋳造の工場を展開する中小企業を営んでいます。そのため、中小企業の経営や交流にまつわる話を聞く機会が多分にありました。そして、その中に提携先やパートナーを探す中小企業の話も多くありました。例えば、仲介してくれる地方銀行に多額のお金を払ってゴルフコンペをする、みたいなことですね。わたしはそれを見て、すごく不毛だと感じていたのです。

Webサービスであればもっと効率的に、かつ地理的な条件に縛られることなく、全国からいい条件のパートナーを探すことができるはずだと考えました。これが、eiiconを着想したきっかけです。つまり、ターゲットとして想定しているのは、こういった中小の製造業者の方々なのです。

全国にはイノベーションにつながるような技術力を持った中小企業がたくさんいます。ただ、そうした人たちは必ずしもITリテラシーが高いわけではないですから、いきなり有料のWebサービスでは絶対に使ってもらえないだろうと考えました。

ローンチ前は不安でいっぱいだったが、いざ始めてみると多くの出会いが生まれ、心配は杞憂に終わったという。

──ローンチから約2週間ということですが(取材は3月10日に行った)、利用状況は?

これまでにないサービスなのでネガティブなシナリオも考えていたのですが、思っていたよりずっと出足がいいです。登録社数は現在約800社。そのうち約1割がいわゆる大企業です。先ほど申し上げたようにeiiconは完全オープンなプラットフォームですから、わたしたちの関与しないところでコンタクトが数十件発生していて、実際に面談調整が行われた例もすでにあります。

──滑り出しとしては順調なようですね。ただ、こういったものは会うだけで終わっては意味がないわけですよね? イノベーションにつながる「質のいい出会い」の条件をどう考えていますか?

1つは、提携する企業同士のビジョンが合致していることです。投資家とスタートアップの関係であれば、市場が伸びそうかどうか、リターンが期待できそうかという単純な基準でもマッチングは成立するでしょう。しかし、企業というのはそれぞれ、何らかの社会課題を解決するために存在しているものです。提携しようという企業間で、何の課題を解決しようとしているのかというビジョンが合っていないと、足並みはずれていってしまいます。

もう1つは、抱えた課題と、それに対する解決策がマッチしていることです。eiiconであればこうした点について、お互いの掲載ページを見たり、メッセージのやりとりをしたりすることで、事前にすり合わせることができます。その上で実際に会うことで、本当にマッチしているのかを確認できる。この「あらかじめすり合わせておく」というところが重要だと考えています。

オープンイノベーションは、本当にそれが自社のビジョンに沿うもので、かつ社外のリソースを使わないと実現できないものでなければ、成功にはつながりません。ところが日本の企業の中には、先ほども触れたように、ブームだからとりあえずやってみたというところも少なくない。実際、企業によってはマイページの項目を書いている途中で、「本当にオープンイノベーションに取り組む必要があるのだろうか?」と筆が止まってしまうところもあるようなんです。

──確たる目的なく取り組むのでは、いい出会いなど望むべくもないということですね。逆に、理想的な形でオープンイノベーションに取り組んでいる例として、中村さんがイメージするのはどんな企業ですか?

周りの人たちがこぞって「P&Gさんがすごい」と言うので、調べてみました。そして、調べれば調べるほどそのすごさを実感することになりました。

P&Gさんがすごいのは、会社のウイークポイントをWeb上で誰でもが見られる形で晒していることです。普通に考えれば、自社の弱みは晒したくないものであるはずですが、すべてを晒すことで得られるメリットの方が大きいということが腹落ちしているのでしょう。オープンイノベーションが手法として社内で確立していることの表れだと思います。

eiiconのマイページにある「一緒に何をしたいか」という項目も、言い換えれば自社に足りない部分を告白しているようなものです。当初は「何ができないか」という項目名にしたかったくらいで。周りの拒否反応が大きかったので断念したのですが、本当にそこが重要だと感じています。

いまの国内のオープンイノベーションの状況は、昔のクローズドな人材紹介業のやり方に近い。だからこそ、人材サービスの知見が活かせるのではないか、と中村は考えている。

──弱みも含めて自分をパブリックな領域に晒すことで得られるメリットがあるというのは、企業も同じということですね。ただ、拒否反応を示す企業も多そうです。

もちろん、チャレンジングな試みだということは承知しています。わたしたちが目指しているのはゲームチェンジャーになることですから。最初に触れたように、オープンイノベーション市場にはこれまでクローズドな仕組みしかありませんでした。そこにいきなりオープンな仕組みを出したわけですから、最初は拒否反応があって当然です。

ただ、これは転職の概念が日本社会に浸透していった過程と似ているとも思っています。

転職も、アメリカから黒船のようにしてヘッドハンターが入ってきた当時は、「日本は終身雇用の社会だから、誰も転職なんてしない」と言われていました。しかし、日本にもプロのヘッドハンターが現れ、そこから人材紹介のようなクローズドな仕組みができ、さらには求人広告を出してやりとりするオープンな仕組みへと進んでいった。いまではダイレクトリクルーティングで直にやりとりするまでになっています。

──まさに御社が経験してきた道程ということですね。では、どうやって企業が持つ古い意識を変えていきますか?

事例の積み重ねしかないと思っています。行列のできる店に並ぶというのが日本の国民性だとすれば、声の大きな人が「美味しい」と言えば、追随する企業は必ず出てきます。だからまずは、オープンイノベーションの実績を多くつくりたいと思っています。

いまの日本は相当な危機に置かれています。どういうデータを取っても今後は労働力が減っていくのは確実です。にもかかわらず、新しい市場を育てるための投資額はアメリカや中国と比べてずっと小さいものです。

でも、想像力のない人にいくら「危機感を持って」と言ったとしても、リアルに危機を想像してもらうのは難しいでしょう。だからまずは実例をつくり、追随する企業を後押しする。そうやって無理やりにでも、取り残された企業が危機に陥るような状況をつくり出すことだと思っています。

もちろんeiiconだけで、すべてが解決できるとは思っていませんよ。現状eiiconでできることと言えば、ただ会うことだけですから。ただ、現状はそのただ会うだけにも多くのお金がかかっていたし、実現できていなかった。だから「まずは会おうよ」というのが、わたしたちが発信したいメッセージなのです。

まずは事例を積み重ねること。そこから少しずつ日本を変えていきたい。