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これからのキャリア論

予防医学研究者・石川善樹が考える、人生100年時代のキャリア論

長寿化が進み、100歳まで生きることが当たり前の時代になりつつある。20年学び、40年働き、20年休むという、人生80年を前提とした親世代の人生モデルはもはや成立しなくなってきている。これからを生きる人たちはどのようにキャリアを築けばいいのか。ビジネスパーソン対象の講演や、企業のアドバイザーも務める石川善樹が綴る、これからのキャリア論。

人生は長い。本気を出すのは50歳からでいい

ある時、ふと疑問に思ったんです。みんな、自分は何歳まで生きると考えているんだろうか、と。

さっそく周りの人に聞いてみると、驚くべきことが分かりました。

たいていの人は「80歳くらい」と答えるのです。

当たり前ですが、この見積もりは甘すぎます。2016年9月時点で、日本の100歳以上の人口は過去最高の6万5000人超。2050年には100万人を超えるとも言われています。さらに言えば、最近産まれた日本の子どもたちは、平均寿命が107歳になるという推計も出されています。

なんというか、これからは100歳まで生きることを大前提として、人生設計を考える時代なのです。人生が80年だった親世代にとっては、20年学び、定年まで同じ会社で40年働き、引退後は死ぬまで20年休むというのが当たり前のモデルでした。しかしこれからはそれが通用しない。つまり、これまでの常識が非常識になるのです。

となると、面白いことが考えられます。ひとつの思考実験として、次のような問いを考えてみましょう。

「はたして自分は、長い人生のどの時期に輝くのか?」

例えば、考えやすくするために、人生を0歳〜25歳、25歳〜50歳、50歳〜75歳、75歳〜100歳の4つのパートに分けてみましょう。あなたがスポーツ選手であれば、0歳〜25歳ということになるでしょう。引退してからやりたいことをやるというのであれば、75歳〜100歳ということになります。

しかし仕事で輝きたいのであれば、多くの人にとってそれは真ん中の2つの時期のどちらかということになります。そしておそらく、漠然と25歳〜50歳で輝こうと考えている人が多いのではないでしょうか。

ただ残念なことに、ほとんどの人にとってそれは無理な話です。なぜなら、会社の駒として働くというのであれば別ですが、自分が本当にやりたいことをやるのであれば、そのために必要なスキルや経験、人脈といったものを、そんな若いうちにすべて揃えることなど普通は不可能だからです。もしそれができたとしたら、それは相当に幸運な人になるでしょう。

必然的に、多くの人が仕事で一番輝けるのは、50歳から75歳までの時期ということになります。そうだとすれば、キャリア・人生設計もそれを念頭に置いてすべきと考えられます。

そもそも、自分がやりたいこと、つまり人生の意味を見つけること自体が難しい時代になっています。松下幸之助が「与えられた仕事を天職と思え」と言ったように、昔であれば、最初に入った会社に尽くすことこそが人生の意義でした。大会社の重役だったということを一生の誇りとして死んでいけた時代があったのです。

しかし、時代は変わりました。会社の寿命も短くなってきているので、1社に勤め上げるということ自体が難しい。

どちらかといえば、いまは会社というより業界が人生の意味を与えてくれています。例えばエンジニアという職業に就いている人を見ても、彼らは会社ではなく業界にコミットし、業界内で影響力や発言力を持つことで、自尊心を高めているように映ります。しかしこれもまた、移り変わりが激しい。これからは複数の業界に軸足を置かなければやっていけなくなるでしょう。

それを象徴するように、『WIRED』日本版編集長の若林さんが、最近こんなことを言っていました。

「これからはひとつに依存する時代ではない。では、依存の反対は何か? ぼくはそれは自立ではなく、たくさんへの依存だと思う」

いずれにせよ、これからの時代は、会社も業界も生きる意味を与えてくれない。するといよいよ、自分と向き合わざるを得なくなります。自分の人生の意味は、自分自身で見つけなければならない時代になったのです。自分で納得できる人生の意味を見つけるのは簡単ではありません。30歳や40歳では到底見つけられないでしょう。その意味でも、輝くのはやはり50歳からと考えるのが、妥当といえます。

転職しまくって5つの専門分野を身につけろ

やりたいことというのは、白馬の王子さまのように待っていれば向こうから来てくれるものではありません。ではどうすればいいのか。50歳までは力を蓄えるための修行の期間と思って、なるべく色々なことを試すしかないでしょう。

ちなみに学問の世界では、50歳までに胸を張って得意だと言える専門分野を5つ持つことが求められる時代になっています。1つや2つでは弱い。5個くらい併せ持つことで、ようやくこれこそが自分のオリジナルだと言えるものが見えてくる。おそらくこれは、ビジネスの世界でも同じかもしれません。そのためには、最低でも3、4回は転職する必要があるということになるでしょう。

では、どんなところに転職すればいいのか。一つの考え方として、下の図が参考になるかもしれません。

縦軸はスキル、横軸に分野をとった時に、分野もスキルも同じところで何回転職しても意味がありません。最終的にはスキルも分野も違うD社という領域をどれだけ味わえるかが、自分の幅を広げます。

とはいえ、最初から分野もジャンルも違うところへ行ってもパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。そう考えると、1、2回目の転職は「求められるスキルは同じだが分野が違うB社」か「分野は同じだが求められるスキルが違うC社」へ転職するのがいいということになります。

そうやって自分がそれまでやってこなかった領域に飛び出すことが、自分はどこでもやっていけるという自信につながります。逆に苦手なことに挑戦してこなかった人には、本当の意味での自信は芽生えません。コンサルティングを仕事にする人に自信を持った人が多いというのは、それだけ色々な領域やスキルを渡り歩く経験をしているからだと思います。

会社内でジョブローテーションをするというのにも同じ意味合いがあります。しかし、それはあくまで終身雇用を前提とした制度で、いまや会社の寿命よりも職業寿命の方が長くなったのは、先ほども触れた通りです。その中でいくら動いても、そこはかとない不安は拭えないままでしょう。

「大局観」で後悔のない転職を

いまいる場所を飛び出して、苦手なことに挑戦するのには勇気がいります。一方で、いまの若い人は敷かれたレールが見えた瞬間、その先を歩くのが嫌になってしまうところがあるようにも見えます。自分の人生、本当にこれでいいのか、と。たしかに、予測とズレがまったくないというのは退屈なことです。

安定をとるのか、変化を求めるのか。このジレンマを解く鍵は、大局観を持つことにあります。というのも、ひとつの会社にとどまるというのは、短期的に見ればたしかに安全な道ですが、中長期的に見たら、その先は行き止まり。1社にとどまるのは逆に危ないというのが、いまの時代です。

大局観を持って人生を眺めれば、実は色々な領域を経験しておくことこそがリスク分散になり、本当の意味での安全な道になります。同時に、短期的に見れば変化していることにもなるから、変化を好む大脳新皮質の欲求も満たされるというわけです。

同じ転職でも大局観を持って行わなければ、後で振り返った時には、自分は一体何に人生を費やしていたのかと後悔することになるでしょう。だからこそ、スキルと分野のマトリックスで自分の人生を俯瞰することが大事になります。

とはいえ、必ずしもそれは、明確な目標から逆算した計画的なものである必要はないと思います。いまの自分にとってのB社、C社とは何か。そういう視点を持つだけで、次にすべきことが見えてくるはずです。

自分が何度も転職している間にひとつのことを磨いている人を横目で見たら、焦る気持ちになるのもよく分かります。しかし、安心してください。その人は50歳までの人です。目の前のことに役立つかどうかという視点で無駄を省くのは、短期的には効果的ですが、中長期で見たら視野が狭すぎるということになるでしょう。

立ち返るべき母港を確立することが最初の一歩

大局観を持つ、つまりいつ輝くのかという視点を持つことは、どんなスキルを身につけるべきかという話にもつながっていくでしょう。というのも、いま活躍したいのであれば、いま流行っていることをやれば近道です。しかし、いま流行っているということはすなわち、早晩廃れるということです。一時期セクシーだともてはやされたデータサイエンティストという職業も、その後ライブラリが充実したことで、一瞬でコモディティ化してしまいました。

そう考えると、流行に流されるよりは、人間の本質に迫るような普遍的なスキルの方がいいかもしれません。どんな仕事をするにしても、わたしたちが相手にしているのは、常に人間だからです。例えばマーケティングやマネジメントといった人間を扱うスキルは、今後も必要性が消えないように思えます。

しかし極論してしまえば、身につけるスキルはなんでもいいとも言えます。何を選ぶか以上に、選んだものをちゃんと掘り下げて、自分のものにできることの方がよっぽど大切だからです。気軽に転職して色々な経験を積むことが大事だと言いましたが、そうするには前提があります。最初に与えられた領域で、まずは圧倒的な成果を残すことです。

きつい言い方になりますが、いま置かれた状況でさえ目立てない人に、そこから外へ出て、一体何ができるでしょう。自分の型と呼べるようなものを確立した人だけが、他へ移ることができます。確固たる型のある人は、移った先で仮に失敗したとしても、元いた場所へ立ち返ることができるからです。

だからまずは、一刻も早く母港と呼べる場所をつくること。そしてそこから大海原へと打って出ること。そうやって50歳までに5つの専門分野を持ち、自分なりの人生の生きる意味を見つける。そこからようやく輝く時期が始まります。輝くのは50歳からというのは、言い換えれば、本気を出すのは50歳からでいいということです。そう考えたら、気負うことなく色々な挑戦ができるのではないでしょうか。