BNLでは、2016年8月より毎週注目のEightユーザーの取材記事を掲載してきた。本年最終週は、弊誌編集長がこれまでの記事の要点をつなぎ考察する、特別総集編をお届けする。
2016年10月7日(金)17:00、ヘアメイクを終えたばかりの田村淳が、番組収録前の楽屋でインタビューに応じた。
芸能人が名刺交換をしている場面は、あまり想像できないかもしれないが、彼の場合は特別だ。渡した名刺をその場で撮影して、「Eightは、ぼくがばらまいた夢をつないでくれる役目を果たしてくれるようになるんだろうな、と思って、いま名刺をすべてここに入れるようにしている」と語った。
結婚式をプロデュースする会社の立ち上げに関わったり、自らテレビ局を開設したり、2016年の淳は、これまでの仕事の枠を越えた活動が注目された。そのきっかけは、北海道でロケットを開発している植松努との出会いにあるという。
植松(努)社長に会った時に、『夢はたくさん持ちなさい』と言われたんです。小学校の時って、なんとなく空気で夢はひとつだと決まっていますよね。ぼくは作文に何個も夢を描いてひとつに絞りなさいと言われたクチなので(笑)、植松社長が夢はいくつもあってもいいし、明日肉食べたいというのもロケット飛ばしたいというのも夢だって言うのを聞いて、いいなと思ったのです。
植松社長は、「夢を考えたらできるだけ多くの人にしゃべりなさい」とも言っていました。そこでぼくは「ウエディングをやりたい!」とか、「テレビ局をやりたい!」とか、テレビが息苦しくなってきたから「テレビ以外のメディアで何かやりたい!」とか、夢をどんどん口に出すようにしたのです。
ロンブー淳に影響を与えた植松努は、父が経営していた北海道の町工場、植松電機に入社後、「CAMUI型ハイブリッドロケット」の開発に成功し、“リアル下町ロケット”として注目されている人物だ。2014年7月に開催されたTEDxSapporoでの講演の様子は、YouTubeで230万回以上の再生数を記録している。
自分の夢について誰かに話した時に、相手が「どーせ無理だ」と言うか、「だったらこうしてみたら?」と言うかで大きな違いが生まれる、と植松氏は語る。
自分の夢をしゃべった時、「いや、それ無理だわ」なんて言われたら元気なんかなくなります。
でも、「だったらこうしてみたら?」「こないだ本屋にこんな本あったよ」「こないだテレビでこんな番組やってたよ」と言われたら、もっと元気が沸くじゃないですか、その方が絶対楽しいです。
だからお互いに夢を喋って、お互いに「だったらこうしてみたら?」と言い合っていたら、全員の夢が叶ってしまいます。だからぜひ「だったらこうしてみたら?」を流行らしていきたいと思います。
「だったらこうしてみたら?」は、相手に新しいことに挑戦する知恵と勇気を与える言葉だ。
日本中のアスリートの体調管理をサポートしたいと考えた元サッカー日本代表の鈴木啓太は、排便記録アプリ「ウンログ」の制作者と出会い、「だったらこうしてみたら?」という助言をもらった。昨年10月に自ら会社を興し、アスリート向けの腸内フローラ解析事業に挑戦している。
いかにしてサッカーとはかけ離れた分野のアイデアを、自分の得意な領域に引き寄せることができたのか、と問うと、「サッカーの枠から一度離れて客観的に見て、ほかの種目を強くする可能性も含めて考えた」と彼は答えた。
ポイントは、自分の軸をいつも意識して見失わないことだという。
「『自分の負けないところは何なんだろう?』といつも考えておくのです。逆に言えば、自分のまったく畑違いなところに挑戦しても、ほかの人たちに負けてしまいます。『自分の軸はこれだ!』というものがひとつあれば、それをベースにして、いろんなところから『これはくっつけられるかな?』と考えるわけです」
もちろん自分の夢を語って、意見を求める相手は誰でもいいわけではない。
植松氏は「ロケットをつくたい」という夢を学校の先生に話した時に、「どーせ無理だ」と言われた経験から学んだことがあるという。
「皆さんは自分が宇宙開発できると思っていますか? 宇宙なんてよっぽど頭が良くないと凄くお金がかかると思い込んでいませんか? 国家事業だと思っていませんか? 誰がそれを教えてくれました? こんなこと教えてくれるのは、やったことがない人なんです。やったことがない人が適当なやらない言い訳を教えてくれるんです」
ではいったい誰に夢を語るべきなのか。
予防医学研究者の石川善樹は、社内の人よりも、社外の人に相談すべきだと教えてくれた。
自分ひとりで考えていても何も生まれない。限られたリソースは社外の人と会ってアイデアを集めることに使うべき。それが現代科学が解明した、「最も優れたアイデアが生まれる法則」なのだ。
「社外の人」という条件だけでは、対象範囲が広すぎる。
所属する会社や業界よりも広い視野をもつ人を仲間に増やすべき、と教えてくれたのは、ハフィントンポスト日本版編集長の竹下隆一郎だ。
ハフィントンポストは、積極的にビデオチャットによる取材を行っている。世界の裏側にいる人とも、部屋から一歩も出られない人とも話せるようになった。そんな時代だからこそ「誰と話すか」が大切になるという。
「どれだけテクノロジーが発達しても人間は人間の声に振り向く。たとえ人工知能(AI)が『明日この人に会うべきだ、店も予約した』と言っても、それをキャンセルしても会いたいと思える人がいる。それが人間の強さだと思うので、両方が共存する社会であってほしいと思います。そして、そう思える人をいかにたくさん、いろんな場所に持っているかが、自分にとってのネットワークの価値ではないでしょうか」
記事:ハフポスト編集長・竹下隆一郎が「Eight Fireside Chat」で語った、広い視野をもつ仲間を増やすススメ
会いたい、一緒に仕事をしてみたい、と強く思える人が見つかったら、次はどうするべきか。受け身では何も始まらないと教えてくれたのは、朝日新聞社の浜田敬子だ。
AERAの編集長を務めていた時に、秋元康や鈴木敏夫、小山薫堂などに1号限りの特別編集長をお願いして実現した実績をもつ彼女からは、目当ての人と仕事をする企画のコツを伝授してもらった。
「人脈って何のためにあるかというと、いい仕事をつくるためですよね。ただ闇雲に数を増やすのではなくて、一つひとつ仕事に落とし込むことで「人脈を可視化」していかなければ意味がないと思うのです。
『この人と知り合ってよかった、この人と仕事したい』って思える人に出会えたら、それを媒体のためにいい企画にどうやって落とし込んでいくかを一生懸命考え出します。
そこでいい仕事ができれば、また新しい人と知り合えて、そこからさらに新しい企画が生まれて、媒体の力も強まる。人脈もどんどん可視化されていく。その繰り返しで仕事のフィールドが少しずつ広がっていくイメージで、結果的に面白い企画が生まれる連鎖がつくれると思うんです」
会いにくい人ほど、まだ自分の知らない情報を持っている可能性が高いため、得られるアイデアの質も高いはずだ。しかし、そもそも会える機会がほとんどない。会いたい、一緒に仕事がしたいと思う人ほど、なかなか接点がなくて会いにくい人である場合が多いのはそのためだ。
石川善樹が勧める方法は、転職後半年くらい経った人に会いに行くことだという。
「結局会いやすい人の中から会うべき人を探すというのが現実的な判断になるのですが、条件が揃えば、そういう人の中でもアイデアの質が急上昇するタイミングがあるのです。
例えば、『転職しました!』という報告はよく届きますが、『転職して半年が経ちました!』という報告はほとんど聞いたことがないですよね。転職した直後だとまだアイデアの質はほとんど変わっていませんが、半年も経てば新しい会社のアイデアを集約して話せるようになっているはずです。そのため、転職して半年後のタイミングにこそ、積極的に会いに行くべきなのです」
一方、Takramの田川欣哉は人脈をエレベーターにたとえて、"上層階へ"連れて行ってもらうことで、これまで会えなかった人に会う方法を教えてくれた。
3階で仕事をしていると、たまに8階から3階に降りてくる人がいるんです。そういう人と運良く出会うことができ、かつ、その人のお眼鏡にかなうと「お前おもしろいから、俺と一緒に8階に来い」と言われる。そして一緒に付いて行くと、8階には自分が見たこともない人たちが生きているわけです。「すげー、こんな仕事をしている人たちがいるんだ」とか思ってドキドキハラハラするわけです。
ほかに取材した、『伝え方が9割』の著者・佐々木圭一、東京大学i.schoolの横田幸信、CRAZY WEDDINGの森山和彦、One JAPANの濱松誠、トーマツベンチャーサポートの森山大器に対しても、以下の共通の問いをもとに話を聞いた。
自分のビジネスネットワークを効果的に活用している人は、
「名刺の枚数」という“ものさし”だけで、
引き出しに眠る名刺の束を数えて満足してはいないはずだ。
彼らはいったいどんな“ものさし”を持っているのだろうか。
彼らの話を整理すると、「ビジネスネットワークのものさし」は、大きく分けて次の2つの問いに集約できる。
1について: 社外の人、なかなか会えない人、転職して半年経った人、組織・業界の枠を超えて広い視野をもつ人、エレベーターで上層階に連れて行ってくれそうな人など、さまざまな考えがあったものの、要するに「自分にはない知をもっている人」、あるいは「自分にはない知をもっている人を紹介してくれそうな人」ということだ。
2について:自分にはない知をもつ人に会えた時には、相手と一緒に実現できる企画を考えるべきだ。知と知の組み合わせの相性が良ければ、面白いアイデアが生まれ、新しい事業やプロジェクトの立ち上げにつながることもあるだろう。
猫も杓子も“イノベーション”と語る昨今だが、この5ヶ月で取材したイノベーター20人の話を聞いた限りでは、シュンペーターの「新結合」の理論を持ち出すまでもなく、イノベーションの本質は知と知の組み合わせであり、アイデアの交換であることは明らかだ。そのほとんどがビジネスの世界では名刺交換から始まり、「だったらこうしてみたら?」といったコミュニケーションから生まれている。
2015〜16年に、Eightは名刺管理の機能に加えて、名刺交換した人とつながり、コミュニケーションを促す機能を追加して、ビジネスネットワークとしての進化を図ってきた。
名刺交換をした場では何も閃きは起きなかったとしても、Eightでつながることで、その後も相手の知と自分の知が組み合わさるきっかけは生まれやすくなったはずだ。
2017年に向けては、さらにビジネスネットワークの価値を高めるべく、新機能の開発を行っている。「だったらこうしてみたら?」というコミュニケーションが、Eightユーザーの間で少しでも増えることを期待して。