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Eight Fireside Chat

ハフポスト編集長・竹下隆一郎が「Eight Fireside Chat」で語った、広い視野をもつ仲間を増やすススメ

11月4日(金)、EightのオフィスでBusiness Network Labのトークイベントが開催された。ゲストはハフィントンポスト日本版の編集長、竹下隆一郎。広い視野をもち、自社の利益を超えた価値を大事にしている人を「仲間」にするべきだと語った。

11月4日(金)、第2回となる「Eight Fireside Chat」が青山にあるSansan社内のイベントスペース「Garden」にて開催された。

Business Network Lab(BNラボ)が主催するFireside Chatは、各界の第一線で活躍するゲストを招き、BNラボのインタビュアーが聞き手となって、これからのビジネスネットワークのあり方について話すトークセッションだ。

第2回のゲストは、ハフィントン・ポスト・ジャパン編集長、竹下隆一郎。彼は朝日新聞の記者として、Twitterを使った選挙の世論分析プロジェクト「ビリオメディア」立ち上げや、R&Dや新規事業を展開する「メディアラボ」に関わった。2016年5月にハフィントン・ポスト・ジャパン編集長に就任。ソーシャルメディア時代にふさわしいメディアのあり方をいち早く捉え、実践している。BNラボのインタビュー連載「ビジネスネットワークのものさし」にも登場した。

連載では、「人脈の7割は偏っている」という事実を認識した上で、デジタルな時代だからこそ人間の「声」を大事にしよう、と語った。BNラボ編集長丸山裕貴がインタビュアーを務めた今回のFireside Chatでは、ハフポスト編集長として体験した人との出会いなど、メディア人ならずとも示唆に富む事例が語られた。

5月に編集長に就任してまず取り組んだことは、「会話が生まれる記事」をつくること。

竹下が編集長を務める「ハフィントン・ポスト・ジャパン(The Huffington Post Japan)」は、2013年5月にサービスが開始された。元の「The Huffington Post」は2005年にアリアナ・ハフィントンによって設立され、現在はアメリカ以外では、日本をはじめ15カ国・地域で展開されている。

メディアとしてのハフィントン・ポストの特徴は、レポーターやニュースエディターのほかに、1000人を超える多彩なブロガーがいることだ。掲載される記事は、速報性の高いニュースもあれば、専門家による論説、有名無名を問わないユニークな書き手によるコラムなど、バリエーションに富む。

竹下がメディアを運営するにあたって大事にしていることは、「ハフィントン・ポストの記事をもとにして会話が生まれること」だと言う。

就任してすぐ、「飲み会やめる そしたら、人生変わる気がする」という記事を書いた。転職前後の数え切れない飲み会の誘いを「試しに8割ぐらい断ってみた」という自らの体験をもとに、「働き方と飲み会」について考えるものだ。最後に、「みなさんはどう思いますか?」と、ツイッターのハッシュタグつきで投げかけた。

「そうしたら、子育て中のお母さんから『どうしても飲み会に行けないのに、飲み会で物事が決まるのはフェアじゃない』という意見が出たり、新入社員から『飲み会だと上司とも話しやすく、自分の企画を訴えるいい機会だからぜひ必要だ』という声が出てきたり、さまざまな会話が生まれたんです。そこからさらに取材を深めて記事にし、イベントまで開催しました」

メディアがフラットな立場でユーザーからのフィードバックを積極的に取り込み、議論を盛り上げていくスタイルは、情報が一方通行で流れるオールドメディアのやり方とはまったく異なる。

参加者から集めた事前アンケートでは、これからのメディアの役割や、人脈とビジネスの視野を広げる技術を学びたい、といった声が多かった。

「はじめはハフポストの社員も"引いて"いた」というこのスタイルを竹下が自らやってみせたのは、朝日新聞時代からの問題意識があった。新聞でも、ワークライフバランスや女性の働き方などの議論を広げたいと、あの手この手で記事をつくっていた。しかし、生活者にとって切実なイシューのはずなのに、なぜか議論が一部の人たちにとどまり、本当に声を聞きたい人たちにまで広がっていかない。

「やはり会話を生み出すためには、日常の言葉で記事を書かないといけないと思ったんです。『飲み会やめよう。どう思う?』。この2つの言葉だけで会話が生まれて、活発に議論される。そのやり方でなら、医療制度改革や、『リベラルってなんだろう』といったもう少し堅いテーマでも、議論を呼び起こすことができる」

竹下は、新聞やテレビが「市民の声」の名の下に「新橋のサラリーマン」に街頭インタビューを行うことに疑問を持っていたと言う。彼らはある意味「特権階級」だ。本当に声を聞くべきは、さまざまな理由で外に出られない人ではないのか? 竹下は「飲み会やめる」の取材で、0歳児の子育て中のお母さんにインタビューをした。乳飲み子を育てている母親は外出もままならない。アポイントは子どもが寝静まったあとの夜11時、スカイプで会話をした。

「お母さんでなくても、お父さんだって子育てをしていれば外には出かけられませんよね。あるいは障害を持っている方。そういう人たちの声をメディアは拾い上げてこなかったんです。メディアは東京に集中していますから、地方の人の声も十分には取り上げてこなかった。でも、フェイスブックとスカイプを通じて、インタビューできる人が増えました」

テクノロジーを活用して成長してきたハフポスト。その編集長はいま、メディアの未来をどう捉えているのか。

誰とでも話せるようになった。だからこそ「誰と話すか」が大切になる。

テクノロジーによって人は、誰とでも話せるようになった。だからこそ「誰と話すか」が大切になる。弱い人、声の小さい人、社会の片隅にいる人。そんな人たちを見落としていませんか。竹下が語るハフポスト編集長としての実践からは、そんなメッセージが感じられた。

ただ、ウエブメディアはまだメインストリームとは言い難い。視聴者数の多いテレビは今も強いアジェンダ・セッティング(議題設定効果)の力を持っている。丸山の「テレビの後追いをしているという批判もありますよね」という問いかけに竹下は首肯しながらも、「しかし今年からその潮目は変わった」と言う。

「『保育園落ちた日本死ね!!!』というブログが話題になりましたよね。ブログで発信された声が国会で取り上げられ、日本の中枢で議論された。これは大きな出来事だったと思います。今後、ネット発の議論がどんどん出てくると思う」

これからの時代、メディア同士は「敵ではなく、協働していく相手」だと竹下は言う。ハフポスト発の議論をテレビの視点で特集してもらい、その反応をハフポストにフィードバックする。あるいは、ハフポストのブロガーの発信力をテレビ制作に生かしてもらう。メディアの垣根を超えたプロジェクトは単なる理想ではなく、十分に現実的だ。

メディアの垣根を超えるという話から、話題はビジネスネットワークを広げる考え方へ。

所属する会社や業界よりも、広い視野を持っている人を「仲間」にすべき。

「人脈は、人を排除するものではないと思うんですね。お互いに潰しあっても仕方がないじゃないですか。大事なのはいかに仲間をつくるか。ビジネスネットワークを広げるとは、仲間を増やすことだと思っています」

竹下にとっての「仲間」は、「その人が所属する会社や業界よりも、広い視野を持っている人」だ。

「もちろん自社の利益は重要ですが、それを超えた価値を大事にしている人とは、何か一緒にやりたいと強く思います。特に若い人たちの中には面白いことをやりたい、世の中にインパクトを与えたいという人が増えている気がするんです」

竹下は、テクノロジーの時代だからこそ、人間同士のネットワークが大切だという。しかしそれは単なる懐古趣味ではない。竹下はもうすこし先の未来を見ている。人工知能(AI)と人間が共存する未来だ。アメリカでは、ニュースをAIに書かせることはすでに実施されており、日本でも最近、中部経済新聞にAI記者が書いた記事が掲載され話題を呼んだ。米Amazonは2014年、AIによって顧客の購買行動を予測し、注文する前に発送する技術(anticipatory shipping)の特許を取得した(サービスは検討中)。

「でも、Amazonのレコメンドの精度がどれだけ上がったとしても、自分の好きな人の『この本、すごくおもしろいよ』の一言が、人間にはいちばん響くと思うんです。どれだけテクノロジーが発達しても人間は人間の声に振り向く。たとえAIが『明日この人に会うべきだ、店も予約した』と言っても、それをキャンセルしても会いたいと思える人がいる。それが人間の強さだと思うので、両方が共存する社会であってほしいと思います。そして、そう思える人をいかにたくさん、いろんな場所に持っているかが、自分にとってのネットワークの価値ではないでしょうか」

熱心にメモをとっている人も多く、後半の30分間は、会場からひっきりなしに手が挙がった。

個人がたとえ組織から離れても生きていける社会が理想だと思う。

質疑応答では、こんな質問が投げかけられた。「どういう人とだったら、長く付き合っていけると判断されますか」。

竹下は「海外旅行へ行ったときに、連絡をしたくなる人がすごく大事だと思います」と答えた。

「この人にこの感動を伝えたいなと思う人ですね。場所を変えると人間の脳は働き方が変わります。いつもと違う場所に行ったときにパッと思い浮かぶ人は、何か自分の中で引っかかりのある人だと思います」

また、こんな質問も上がった。「誰にとってもそれぞれビジネスという目的があってネットワークをつくろうと考えるものだと思うが、言論人としてネットワークの目的をどう考えているか」。

この質問に竹下は、「言論人と言うとおこがましいですが」と前置きした上で、こう答えた。

「わたしは個人の力を信じています。大きな力に負けないでいかに日本人が個として生きていけるかということを大事にしています。ネットワークに興味があるのも、単に人脈を広げたいとかいいビジネスリーダーになりたいというよりは、個人がたとえ組織から離れても生きていける社会が理想だと思うからです。そういう社会を実現したいと思って一生懸命発信しているつもりです」

トーク終了後は、約1時間の懇親会が設けられた。Eightアプリでの名刺交換をきっかけに会話が盛り上がる姿もあちこちで見られた。