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ビジネスネットワーク活用の裏ワザ

「自分にしかできない店づくりで信頼を築く」カフェプロデューサー石渡康嗣の指名を受ける仕事術

世の中には知人からの紹介だけで、話題を集める仕事を次々と実現していく人がいるものだ。ブルーボトルコーヒーやダンデライオン・チョコレートの日本展開を任された石渡康嗣もそのひとり。得意とする仕事にこだわり、それを実現するためのチームを育成する、敏腕カフェプロデューサーの「ビジネスネットワークの裏ワザ」を探る。

Eightユーザーのつながる技術を探る「ビジネスネットワークの裏ワザ」

名刺をEightに取り込むだけではもったいない。あなたのビジネスネットワークをもっと効果的に活用できれば、仕事の課題に対して新たな解決の糸口が見つかるかもしれない。つながりを生かして、ひとりの力では実現できないことを達成していく人たちには、きっと新人研修では教えてくれないビジネスネットワーク活用の"裏ワザ"があるはずだ。

注目のEightユーザーを取材する企画「ビジネスネットワークの裏ワザ」。今回は飲食店のプロデュース・マネジメントを手掛ける株式会社WAT代表の石渡康嗣が登場する。


石渡が考える"カフェ"のあり方

サードウェーブコーヒーを一躍日本に広めたブルーボトルコーヒーや、「Bean to Bar」という哲学をもとにクラフトチョコレートを展開するダンデライオン・チョコレート。これらのブランドの日本展開の際に活躍したのが、飲食店のプロデュースを手がける石渡康嗣だ。

世界各地を巡って食の豊かさを学んだ。京都で喫茶店を経営していた母親の影響も受けているという。

京都で生まれ育った石渡は、大学在学中に世界を放浪したのちに、24歳でNECに入社した。その後、退職してスターバックスに勤め、カフェの勉強をした後、友人と起業することに。2004年に東陽町のfutsalcafe KELなどの設立に関わった。

その後「W's Company」にて豊洲「CAFE;HAUS」の店舗開発に携わるなかで、次第に街づくりや地域との関わり、街におけるカフェのあり方へと考えをシフトさせていった。

「カフェが貢献できることは人の会話を生み出すことです。自分にとってのカフェは、不特定多数の人が来るのではなく、その地域に暮らす・住む人たちにとっての居心地の良い場所だと考えています。この街に何が必要か。必要な要因を分析しながら最適な場を提供しています」

2014年に飲食店のプロデュース・マネジメント事業を行う「WAT」を設立。15年に清澄白河にある倉庫を改修したブルーボトルコーヒーをオープンさせた。16年にはダンデライオン・チョコレートをプロデュースし、現在は店舗開発とマネージメントに携わりながら「地域に根づいたカフェづくり」を実践している。

コミュニティ・カフェにおける重要な要素は「バランス」だ。飲み物、料理、音楽、空間。あらゆる要素を石渡はバランスよく計算している。ただそれを声高にアピールすることはない。お客さん自身に良さに気づいてもらうことが大切なのだという。

裏ワザ1. 自分にしかできない仕事を問い続ける

長年カフェ運営など現場を預かる仕事が多かった石渡は、他者と深い信頼関係を築きながら仕事を進めるようになったという。

「クライアントが依頼だけして『後はよろしく』みたいな形は受けません。一緒になって汗を流し、より良いものを互いにつくり上げようとする人と仕事をしたいと考えています。仕事に対して真摯に向き合う姿勢。そうやって仕事を通じて他者との関係性をつくり上げてきました」

石渡が依頼を受ける仕事は、ほぼすべて知人やその紹介によるものだ。彼の得意とするカフェづくりを理解している人から依頼された方が双方満足のいく結果になりやすい。だからこそ石渡は「ご縁を大切にする」考えを第一に仕事をしているという。

蔵前にある倉庫を改修したダンデライオン・チョコレート。カカオ豆の産地からチョコレート・バー(板チョコ)になるまでの製造工程すべてにこだわり、小ロット生産する「Bean to Bar」の考えにファンも多い。2号店が伊勢市に12月頃オープン予定だ。

飲食業の難しさを人一倍知っている石渡だからこそ、WATで飲食店を運営委託する際はクライアントとの二人三脚に気を使っている。いつも意識しているのは「ゴールに立ち戻る」ことだという。

「売上第一な飲食店であれば、ぼくが携わる必要はありません。飲食で利益を上げることにかけてはぼくより優秀な人はいますし、違うところに頼んでくださいとはっきりお伝えします。ぼくにできることは、コミュニティを形成する飲食店として、その地域に貢献する場所をつくること。クライアントに対しても、最初にゴール設定を求め、常にその原点に立ち戻りながら、地域のお客さんが求めているものは何かを考えます」

相手がいかに本気でその事業と向き合おうとしているのか。本質的な仕事のなかで、自分が関わるべき仕事かどうかをじっくり検討した上で、成果以上のものを生み出そうと努力する。その姿勢をもとに確固たる信頼関係ができているからこそ、石渡と関わった人たちの多くがパートナーとして彼を指名し続けるのだ。

例えば何もない場所にカフェをつくり、価値が小さなところに売上だけではない新たな価値をつくり上げる。そういった脚光があたらないものに脚光を当て、そこに営みや商いが生まれるようなシステムを、石渡は飲食を通して生み出していきたいという。

裏ワザ2. チームビルディングで人の能力を引き上げる

「カフェという業態は人がすべて」と話す石渡。品質の良いサービスを提供するために、WATでは社員を積極的に登用しているという。

「飲食店の現場は、バリスタであればコーヒーをおいしく淹れる、空間であれば最適な音楽をかける、料理であれば素材を生かした調理ができる、オペレーションは予約管理業務など効率的な業務を遂行できるなど、適切な運営には専門的なスキルは欠かせません。彼らが何年一緒に働いてくれるかはわからないですが、WATにいる期間がその人にとってのよいキャリアパスとなるための教育や雇用方法、報酬体系の確立は、常に優先順位が高いことと捉えています」

コーヒーならまだしも、チョコレートをカカオ豆からつくった経験のある人はなかなかいないものだ。だからこそ、ダンデライオン・チョコレートでは人材育成に力を入れている。

日本ではとかく人事は軽視されがちだ。そうではなく、ポジティブに積極的にチームビルディングを考える部署の必要性と、それらを通じた人材育成や人材登用の重要性を石渡は説く。

「東京は飲食店だらけで優秀な人は引く手数多。待遇や将来性を考えると、カフェにいい人材は集まりにくいんです。けれども、これからいい人材になる人を見抜き、育てることはできます。必要な人材を自分たちで育て、チームをつくり上げていくこと。これはつまり、人のプロデュースにもつながっていくと思います」

組織内のチームビルディングだけでなく、体外的なチームビルディングにも石渡は力を入れている。飲食店をひとつつくるためには、設計、施工、リクルーティング、近隣関係者に対するコミュニケーション、そしてクライアントなど、さまざまな立場の人間が関わる。そのステークホルダーはすべての現場において変化する。

立場の違う人たちとタッグを組んで生まれた空間のひとつが、下北沢の高架下空間にできた「下北沢ケージ」だ。京王電鉄の高架下にある空間に、東京R不動産など不動産再生プロデュースを手がける株式会社スピークと、クリエイティブ制作などを手がける株式会社東京ピストルらとともに、イベントスペースと飲食店舗を運営している。

「スピーク林(厚見)さんの仕事の進め方や東京ピストル草彅(洋平)さんの人の巻き込み方など、自分にはないものを持った人たちと仕事をする中で学べたこともたくさんありました。これまで、WAT主体でカフェを運営することが多かったのですが、今度はカフェも含めた空間やコミュニティづくりにおいて、複数のチームをまとめ上げることで、新たな価値を生み出す可能性があると思います」

最近、よく考えているのは「自分は片棒を担ぐのが仕事」という意識だという。自分自身で何かを表現するのではなく、何かをやりたい人たちとタッグを組み、その人たちのクリエイティビティが120%発揮されるための設えをどうプロデュースするか。「下北沢ケージ」においても、飲食という立場ながらスピークや東京ピストルの能力が発揮されるために必要な飲食や空間設計を考えたという。

組織内ではチーム内の人材を成長させ、組織外ではパートナーの能力を引き出すための場を設える。カフェだけでなく、人材や組織そのものをプロデュースすることで、仕事の成果がより良いものへと生まれていく。確固たる信頼関係を築き上げたパートナーたちと、彼は今日も新たな価値づくりのための空間設計に挑んでいる。

常に本質的なものをつくりだしていきたいと話す。「石渡が不在でもWATが自律的に動き始めたら、別組織で新しいものづくりに挑戦したい」と今後の目標についても語ってくれた。

文/江口晋太朗 撮影/小野田陽一