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ビジネスネットワークの“ものさし”

「自分の技術はすべて惜しみなく公開すべき」ベストセラー『伝え方が9割』を記したコピーライター・佐々木圭一の教え

シリーズ85万部のベストセラー『伝え方が9割』の著者・佐々木圭一が、自身の経験にもとづき、いま自分が求めている情報が自然と集まり、これまで接点のなかった人にも出会えるようになる、明日から実践可能なビジネスメソッドを明かす。

Business Network Labのインタビューシリーズ「ビジネスネットワークのものさし」は、こんな問いを掲げてスタートした。

自分のビジネスネットワークを効果的に活用している人は、

「名刺の枚数」という"ものさし"だけで、

引き出しに眠る名刺の束を数えて満足してはいないはずだ。

彼らはいったいどんな"ものさし"を持っているのだろうか。

今回このテーマに新たな視点をもたらしてくれるのは、コピーライターの佐々木圭一だ。

2013年に刊行された『伝え方が9割』は、とかく精神論に傾きがちなコミュニケーションの課題解決を、誰もがいますぐ使える実践的な手法に落としこみ、シリーズ85万部を超えるベストセラーとなっている。

本を出して以降、初対面の相手には「『伝え方が9割』の佐々木さん」と紹介されることが増え、ビジネスの出会いも「激変した」という。その体験談が物語るのは、自分のとっておきの技術をどれだけ多くの人に広めたか、という人間心理の裏をかく"ものさし"だ。

この1作目は2013年3月に発売された。昨年4月に続編も出版されているので、書店で見かけた覚えのある人も多いのではないだろうか。

──「伝え方の技術」は、コピーライターにとってみればいわば企業秘密。『伝え方が9割』は秘伝のレシピを公開するようなものだと思います。そのような本をなぜ出版しようと思ったのでしょうか。

実は、『伝え方が9割』を出版する前、とてもブルーな気持ちになりました。この本では、ぼくが持っているコピーライティングの技術のなかでも、最も有効な部分を、何ひとつ隠すことなく書いています。しかも、単に方法論を書くのではなく、レシピ(手順書)に落としこむことで、誰でも真似できるようにしています。

それだけに、いざ本になるというときになって、少し怖くなったんですね。ぼくが17年かけて見つけてきた伝え方の技術が、たった1500円で売られてしまう。みんながその技術を知ってしまったら、ぼく自身に仕事がこなくなるんじゃないか。やっぱり出すべきではないのではないか、と思い悩みました。

それでもなぜこの本を書いたかというと、ぼく自身、もともと伝えることが苦手だったという経緯があるからです。

小学生のころから転校が多くて、各地域の話し方や遊び方に慣れることができず、すでにできている友だち同士のグループに入るのも難しくて苦労した経験があります。

大学では機械工学を学びましたが、人とコミュニケーションをするより、機械と一緒にいるほうが楽でした。機械はプログラミングをすればその通りに動いてくれる。その関係はぼくにとって快適でした。

でも就職活動を始めて、自分はどんな人間になりたいかと考えたときに、本当は人と関わりたいことに気づいたのです。好きな相手にうまく気持ちを伝えられなかったり、友だちのためを思って言ったつもりなのに逆に怒らせてしまったり。そんな苦い経験をたくさんしました。かたや、そういうことを自然に、上手にしてしまう人がいる。「この差はなんなんだ」と考えました。正直うらやましかったし、そういう人に少しでも近づきたいと思いました。それで、コミュニケーションの業界に行こうと決めて、広告会社に入社したのです。

──はじめからコピーライターを志望されたのですか。

いいえ、理系だったので、市場調査や分析などの数字に関わることならできるかもしれないと思っていたくらいで、コピーライターの部署への配属は予想していませんでした。

──まだ扱いに慣れていない「言葉」を使うプロ集団に、いきなり配属されたわけですね。

入社直後は、上司のもとで毎日コピーを書き続けました。ただ、自分が指名を受けた仕事ではなく、上司が参加したプロジェクトの仕事を振られて、それをやり続ける日々でした。

──果てしなく毎日宿題がある、みたいな感じでしょうか。

例えばケーキをつくるのであれば、「ケーキ、完成!」で終わりですが、コピーには終わりがありません。1000本でも1万本でも、書こうと思えばいくらでも書けるのです。

──『伝え方が9割』のまえがきに、1日に400〜500案のコピーを書いて、書いても書いても捨てられたと記されています。「自分には才能がない」と思い悩む日々は本当に辛かった、とも。

「仕事がなくなるかも」と不安になるほど、すべてをさらけ出すべきだ、と心に決めた

そんなぼくでも、伝え方の技術を知り、身につけることができるという経験をしたわけです。でも、ぼくが17年かけて苦心して見つけたものを、一から経験しろというのでは、膨大な時間と労力がかかります。だから本を書くときには、料理のレシピのように、「この手順でやれば誰でもできる」というものにしなければ意味がない。「仕事がなくなるかも」と不安になるほど、すべてをさらけ出すべきだ、と心に決めたのです。

ウゴカス」のオフィスの窓際には、カンヌ国際クリエイティヴアワードで受賞した6つのライオンが飾られている。

──佐々木さんの会社「ウゴカス」が掲げる「心が動いたとき、人は動く」というコンセプトにも通じると思うのですが、言葉で人間を動かそうとするとき、プログラムで機械を動かすこととの違いは、入力と出力のあいだに「心」という、なんとも不思議なものが挟まっていることだと思うんです。「心が動く」ということに対して、佐々木さんはどうしてここまで考え抜くことができるのでしょうか。

広告の仕事を20年やってきて、さまざまなコピーを書いてきましたが、いま、ぼくが興味があるのは、単にイメージを言葉にすることではなく、そのモノがきちんと売れるということです。

どうすれば人がおもしろいと思うか、人を驚かせることができるかということについてのチャレンジはやりつくしたという自負もあり、そこで得た法則もあります。いまは、それだけでなく、人がモノを買いたくなるというところまで仕事として責任を持ちたいと、より強く思うようになりました。

日本の企業は、製品でもサービスでも、非常にこまやかに気の利いた、良質なモノをつくることを得意としています。だけど、「つくって終わり」という部分も多い。たしかに、いいモノさえつくっていれば売れた時代はありました。しかし、いまは「伝える」までやらなければモノは売れません。よさが伝わっていないから広く普及していないというのは、売り主が困るだけではなく、消費者の側からしても、いいモノを手に入れる機会を失っているということだから、もったいないことなんです。

──だから、佐々木さんの「伝え方の技術」は、自分がどういう行動をしたらどういう結果が生まれるかということに、非常に意識的なんですね。

ただ素敵な文章を書くだけなら日記でいい。相手のアクションに結びつくようにしたい

ただ素敵な文章を書いてもしょうがないでしょう? という気持ちはあります。それだったら日記でいい。でも、人に読んでもらう文章を書くのであれば、何かしら相手のアクションに結びつくようにしたい。根底にその考えがあるから、『伝え方が9割』でも、ただ自分の言いたいことを書くのではなく、それによって相手が反応したくなる、動きたくなるような言葉をつくるためにはどうしたらいいだろう、ということを意識して書いています。

──実際に『伝え方が9割』は、ベストセラーになり、何十万人もの人が「伝え方の技術」を手にしました。本を出されたことによる変化はありましたか。

すごく変わりました。激変と言ってもいいでしょう。人との出会いが圧倒的に変わりました。著名な経営者やタレントのような、以前はほとんど接点がなかった人たちとお会いする機会が増えました。名刺をいただかなくても、相手が何者かがわかる場面は多くなりましたね。

──本が名刺の代わりになって、相手から見ても「佐々木さんが何者か」が伝わりやすくなったのでは?

そうかもしれないですね。本当は「コピーライターの佐々木」なのですが、「『伝え方が9割』の佐々木」と言ったほうが相手にとってわかりやすい。コミュニケーションの入り口が広がったので、「コピーライターの佐々木」を知ってくださる方も、とても多くなったと実感しています。

名刺の束の横には、書籍の内容を記した名刺サイズの「超携帯版」が置かれていた。

──いまも「伝え方の技術」を考え続けていらっしゃいますか。

はい。昨年、『伝え方が9割 2』を出すことができたのですが、第3章の「『強いコトバ』をつくる技術」では、『伝え方が9割』で書いた5つに、新たに3つの技術を加えて、合計で8つの技術を公開することができました。

──その新しい3つは、1冊目と2冊目のあいだに思いついたものですか。

いいえ、ぼくの中では以前から持っていたものです。ただ、技術として、誰でも簡単に使える方法にまでブレイクダウンするのが難しかった。このとおりにやれば誰でもできるというものにしたいと思っていましたから、1冊目の段階ではそれが5つだったということですね。レシピ化されていない技術は、実はまだまだあります。

それに、ぼくが公開した技術以外にも、技術は探すことができると思うんです。「こんな方法もあるよ」というものが発見できる可能性をぼくは否定しません。そういうものを見つける人が現れたら、すごいですよね。

──本当ですね。もしかしたら、誰でも何かしら「自分の技術」を持っていると言うこともできるかもしれません。

そうですね。

──たとえば、人との出会いが広がるなかで、「この人の持っている技術はすごい。これをレシピとしてみんなに公開したらいいのに」と思うようなことはありますか。

やはり経営者の方は、経験でも考え方でも、すごいなと思う方がたくさんいらっしゃいます。話をしているだけでとても勉強になる。そういうことが本になってたくさんの人に共有されるようになったらいいのではないかなと思うことはよくありますね。

──佐々木さんにとって、「伝え方の技術」は「これを書いたら仕事がなくなるのでは」と悩むほどの秘伝中の秘伝だった。でも、自分から公開したからこそ、新しい出会いが増えた。それ以外にも、受け取るものが増えたという実感はありますか。

ぼくは、毎日の生活のなかで「伝え方の事例」を非常に意識して探しているのですが、人から教えてもらうことが圧倒的に増えましたね。友だちが『あそこのレンタルビデオ店の貼り紙がすごくおもしろくて』と教えてくれたり、クライアントの方が『この本にこんなことが書かれていましたよ』と伝えてくれたり。そういうおもしろい事例がたくさんぼくのところに集まってくるようになったんです。きっと、『これ、佐々木さんに教えたら喜ぶだろう』と思ってくださるのでしょうね。

──わあ、それはうれしいですね。

うれしいですね。

──楽しいことを共有できるようになるということですものね。本を出す前にはブルーになったとおっしゃっていましたが、いまとなってみれば。

本当に、自分がまずはじめに、持っているものを隠さずにすべて出したことが、とてもよかったんだなと思います。

「何をすれば人は喜ぶか?」を考えることが多いという佐々木は、相手のことを一言で表現するキャッチコピーをプレゼントすることもあるという。「お金はかかりませんが、それなりの時間はかかります。つまり、その人のことを考えた時間をプレゼントしているのです」


コピーライターとしての秘伝の技術を公開することで、佐々木さんの環境は「激変した」。しかしそれは、事前に危惧していたようなネガティブな変化ではなく、ビジネスネットワークを活性化し、自分自身を次のステージへと進めてくれる前向きなものだった。

さて、自分には何か人に与えられる技術があるだろうか。あの人とどんな喜びを共有することができるだろうか。そんな気持ちでEightを立ち上げてみると、これまでとは違うアイデアが浮かぶかもしれない。