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ビジネスネットワークの“ものさし”

「いいアイデアの9割は社外から集まる。では明日は誰と会うべきか?」石川善樹が説く、ビジネスネットワークの法則

社内でトライ・アンド・エラーを繰り返すのは時間の無駄で、社外のアイデアを拾いに行く方が明らかに効率的だという研究結果がある。では明日からいったい誰に会いに行くべきか。名刺の本質と未来を研究する石川善樹が、人脈を活かした最新のアイデア発想法を語る。

Eightブログで2016年8月からスタートしたインタビューシリーズ、「ビジネスネットワークのものさし」では、以下の問いを掲げ、Eightを活用して第一線で活躍するビジネスパーソンを取材する。

自分のビジネスネットワークを効果的に活用している人は、

「名刺の枚数」という“ものさし”だけで、

引き出しに眠る名刺の束を数えて満足してはいないはずだ。

彼らはいったいどんな”ものさし”を持っているのだろうか。

シリーズ初回で取材した浜田敬子(AERA前編集長)は、企画力を磨いて相手と一緒にできる仕事をつくることで、つながりを濃くしていくことが重要だと語った。(第1回の記事はこちら

第2回となる本記事では、『疲れない脳をつくる生活習慣』、『友だちの数で寿命はきまる』、『最後のダイエット』等の著書で知られる、予防医学研究者・石川善樹の思考に迫る。

彼の研究は、最近はビジネスの世界にも広がりを見せており、企業内研修の講師としても活躍している。なかでもいま論文の執筆を準備しているほど注目しているのが、ビジネスネットワークの研究だ。

石川は、2010年に科学雑誌『Science』に掲載されたソーシャルラーニングの研究を紹介し、社内のメンバーだけでアイデアを創造するのは時間の無駄であり、9割のリソースを使って社外にアイデアを探しに行くべきだという。ただし、闇雲に社外の人に会いに行くのは非効率であり、「得られるアイデアの質と会いやすさのジレンマ」を理解して、「禁じられたトライアド」という社会学の理論を知ることで、効率よくアイデアを交換することができるという。

予防医学研究者でありながら、ビジネスパーソン対象の講演や、企業のアドバイザーまで務める石川善樹。彼に「いったい何の仕事をしている人なのか?」と問うと、「本質と未来を考える仕事」だと言う。

クルマをつくる意味って何ですか

「トヨタって何してる会社ですか?」

これは以前”トヨタの偉い人”に会ったときの石川善樹の問いだ。

「クルマをつくっています」

当然このような回答が返ってくる。そこで彼はさらに突っ込んで訊いた。

「ではクルマをつくる意味って何なんですか?」

すると、トヨタの人は答えに詰まったという。

トヨタと聞けば、どんな仕事をしているかはだいたい想像がつく。「でもそれは本当にわかったと言えるのか?」と石川は疑問を呈する。「現代においてクルマをつくる意味を答えられなければ、たとえトヨタの人であっても、その人の仕事を理解したとは言えないと思うのです」

特に「クルマ」という誰もがイメージしやすい分類パターンに当てはまる仕事は、なんとなく理解した気になってしまう。しかし、クルマの本質とその未来を考えている人は、ほとんどいないのが現状ではないだろうか。

人々が無意識のうちにパターン化してしまっている物事の本質と未来を考えること。それが研究者・石川善樹の仕事だ。

「人の脳は怠け者なので、すぐに物事をパターン化する傾向があります。しかも無意識で行うので本人は気づきにくいのです」

石川にしてみれば、Eightユーザーにとっての「名刺」も、トヨタの人にとっての「クルマ」と同様、なんとなく理解した気になっているものだという。

名刺交換=アイデアの交換

「名刺」とは何か?

改めてそう問われると、ほとんどの人は答えに詰まるだろう。多くの人にとって名刺とは会社から支給されるもので、当たり前の存在であり、あまり深く考えることはないからだ。石川の答えはこうだ。

「名刺とはアイデアであり、名刺交換はアイデアの交換なのです」

いったいどういうことかと問うと、次の図を描いて説明してくれた。

「基本的にぼくら研究者は、すぐ方程式にしたがります。つまり、左辺と右辺が等しいと言いたい人たちなんです(笑)」(石川)

「名刺を渡すときって会話をしますよね。ただ、その当人同士が話している内容というのは、実は個人のアイデアではなく、お互いが所属する会社の上司や同僚の意見を集約した、会社を代表するアイデアなのです」

もちろんアイデアの交換は、名刺交換をする社外の人とだけするものではない。社内で同僚とアイデアを出し合うこともある。コミュニティの外にアイデアを取りに行くか、あるいはコミュニティの中でアイデアを創り出すか。大きく分けるとアイデアの交換は、このどちらかに分類できるという。

ただし石川は、2010年に『Science』誌に掲載されたソーシャルラーニングの論文を読み、アイデアの交換はほぼ社外の人とするものを指すべきだという洞察を得たという。

「ある意味、これまでの常識を覆した研究だったのですが、自分たちでトライ&エラーするよりも、ほとんどのエネルギーを使って外にアイデアを取り入ったほうが、生存戦略としては正しいと出たのです」

自分ひとりで考えていても何も生まれない。限られたリソースは社外の人と会ってアイデアを集めることに使うべき。それが現代科学が解明した、「最も優れたアイデアが生まれる法則」なのだ。ただし、闇雲に社外の人と会ってアイデアを集めてくればいいというわけでもない。人間には「150人の壁」というものがあるからだ。

Eightユーザーの平均は10名刺交換/月だが、アイデアの流れの速さとしては、50名刺交換/月くらいが理想だという。

150人、それが人間の脳の限界

人間がきちんと関係を維持できる人数は、だいたい150人までと決まっている。

動物の群れのサイズは、脳全体に占める大脳新皮質の割合によって決まっているからだ。これを「ダンバー数」という。地球上の生き物の中で、最大の大脳新皮質をもつ人間の数値は最も大きい。

「関係を維持できるのは150人。
親しくやり取りできるのは5人。
それが脳の限界です

ダンバー数で有名な数値は、関係を維持できる150人だが、親しくやり取りできる人数に条件を絞れば、5人くらいが脳の限界だという。(正確には、親しくやり取りできる人数は2〜5人のバラつきがあると報告されている。研究はこちら

「人間の脳の大きさは変わっていないのに、人々は都市に集結し、SNSで簡単に多くの人と関係が保てるようになりました」と石川は言う。「つまり現代人は、脳が許容できる限界を超えてメンテナンスすべき人が増えている状況にあるのです」

Facebookの登場以来、つながれる人の数は桁違いに増えている。いままでは連絡が途絶えたら自然と切れていた関係も、いまでは足し算で増え続けている。だが、Facebookでコメントしたり「いいね!」したりメッセージを送るなど、日常的に交流している人数は意外と少ないはずだ。その証拠に、2012年にFacebookで2,000人の友人がいるWIRED.comのライターが、ダンバー数(150人)の反証を試みたが無残にも失敗している。

明日どの5人と会ってアイデアを得るべきか?
その問いに答えてくれるアプリはまだ存在しません

「SNSで多くの人をフォローして、いろんな人と話がしたいという欲求は、すでに過去のものになりつつあります」と石川は言う。「いまは出会いの量よりも質の時代に入ってきています。いま自分は誰と会うべきかという問いの答えを求めるようになってきているのです」

明日どの5人と会ってアイデアを得るべきか? 今年はどの150人と関係を維持するべきか? 昨日得た情報を誰にシェアしたらいいのか? それらの問いに答えてくれるアプリはまだ存在しない。

「その問いに答えることが、本質的にはEightが目指すべきところかと思います」

「もしビル・ゲイツや安倍総理と会えたら、絶対面白いアイデアが得られるはず。でもほとんど会える機会はないわけです」

会いやすさとアイデアの質のジレンマ

さて、ここからがいよいよ本題だ。

Eightが明日ランチすべき人をおすすめしてくれるような機能が追加されるのは、まだしばらく先の話になりそうだが、今日から始められるビジネスネットワークの活用法がある。それは「得られるアイデアの質と会いやすさのジレンマ」を頭に入れておくことだという。

「会いやすい人とはすでに頻繁に会っているため、また改めて会ったところで得られるアイデアの質は低いものです。逆に会いにくい人ほど、まだ自分の知らない情報を持っている可能性が高いため、得られるアイデアの質も高いはずですが、そもそも会える機会がほとんどありません」

このジレンマを突破する方法として石川が提案するのは、会いやすい人の中から得られるアイデアの質が急激に上昇するタイミングを見極めることだという。

「結局会いやすい人の中から会うべき人を探すというのが現実的な判断になるのですが、条件が揃えば、そういう人の中でもアイデアの質が急上昇するタイミングがあるのです」

この図を描けば、世の中のだいたいのことは説明できてしまうという。

「例えば、『転職しました!』という報告はよく届きますが、『転職して半年が経ちました!』という報告はほとんど聞いたことがないですよね。転職した直後だとまだアイデアの質はほとんど変わっていませんが、半年も経てば新しい会社のアイデアを集約して話せるようになっているはずです。そのため、転職して半年後のタイミングにこそ、積極的に会いに行くべきなのです」

転職したばかりの人ではなく、
転職して半年経った人に会いに行くべき

アイデアの質が急上昇するタイミングは、他にもある。

「禁じられたトライアド(Forbidden Triad)」と呼ばれる社会学の学説に当てはまる場合だ。

「AさんがBさんのこともCさんのこともよく知っている場合、理論的にはBさんとCさんがつながっていないのはあり得ない、という学説があります。でも現実の人間のコミュニティではこういうことはよくあります。『え、まだそこつながってなかったの?』と言うときです。情報をシェアするという意味では、ここを閉じてあげるのがいちばん効率がいいわけで、このような人間関係を見つけたら、率先して3人でランチするべきなのです」

スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッター博士が1973年に発表し、社会学に大きな影響を与えた論文「弱い紐帯の強み(The strength of weak ties)」 で論じられている「Forbidden Triad」説も、アイデアの質を高めるヒントになるという。

カーナビならぬ「ヒューマンナビ」

最終的には、カーナビのように機械が会うべき人を紹介してくれる、いわば「ヒューマンナビ」ようなものが流行って、アイデアの流れが最適化された社会ができていく。そのように石川は予測しているという。

「ヒューマンナビに『今日はこの人と会いましょう』と提案される日常は、そう遠くない未来に当然のように訪れるでしょう。現時点では、そんなことを機械に言われてもほとんどの人がまだ信用できないはずです。ただカーナビも最初は多くの人が反発しましたが、いまやタクシードライバーですら当たり前のように使っています。提案の精度が上がれば、人間というものは一瞬でテクノロジーに従うことに慣れる生き物です。ヒューマンナビのようなサービスが社会に実装されていくのは、もう少し先の話になるかと思いますが、Eightなら実現できるのではないかとわたしは期待しています」

石川が所長を務めるHabitech研究所の電脳クリエーター・出雲翔が開発した、Eightユーザーの転職の流れを分析したネットワーク図(非公開)。石川のようにネットワーク図を読み取る力がない限り、まだほとんど役に立つものではないが、「ヒューマンナビ」の実現に向けた第一歩とも言えるかもしれない。